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農業農村整備の社会的意義

農業農村整備の社会的意義
元杉昭男

【発行所】(株)土地改良新聞社

【発行日】

【電   話】03-3435-8166

【定   価】2000円(税込)

評者名:元杉昭男
元中国四国農政局長、
前(社)地域資源循環技術センター専務理事

農業農村整備事業への正しい理解を期待  農業農村整備事業は農業生産に欠かせない設備投資であるとともに、農村の生活環境の改善にも大きな役割を果たしているため、国の予算上では公共事業費に位置づけられ、実施されてきました。現在、土地改良投資に占める国や地方公共団体の負担割合は95%程度であり、国の予算動向が非常に重要です。 しかしながら、農業予算、特に農業農村整備事業予算の具体的な内容の変遷などについて書かれた書物はきわめて少なく、古くは今村奈良臣教授の農業補助金に関する一連の著作や10年程前に出版された石原健二氏の「農林予算の変遷」などがある位です。 筆者は長年に渡り、農林水産省で農業農村整備事業...

農業農村整備事業への正しい理解を期待

 農業農村整備事業は農業生産に欠かせない設備投資であるとともに、農村の生活環境の改善にも大きな役割を果たしているため、国の予算上では公共事業費に位置づけられ、実施されてきました。現在、土地改良投資に占める国や地方公共団体の負担割合は95%程度であり、国の予算動向が非常に重要です。
 しかしながら、農業予算、特に農業農村整備事業予算の具体的な内容の変遷などについて書かれた書物はきわめて少なく、古くは今村奈良臣教授の農業補助金に関する一連の著作や10年程前に出版された石原健二氏の「農林予算の変遷」などがある位です。
 筆者は長年に渡り、農林水産省で農業農村整備事業予算に携わり、事業の性格にかかる根元的な考察に加え、時には予算全体の企画・編成に、時には大区画ほ場整備や土地改良負担金対策などの新しい制度の創設、また、予算額が過大であるとか公共事業に馴染まないといった批判に対する反論などを経験しました。行政担当官の考えた内容は、なかなか書物に残りづらいのですが、戦後の農政史を論じる上で、不幸なことです。

 本書は筆者の体験を軸に農業農村整備事業の歴史と展望を論じたものです。内容は大きく二つに分かれ、一つは旧農業基本法成立以来の農業農村整備事業予算の歴史的な分析です。予算額・制度創設数などの時系列データを分析するとともに、その時々の時代背景と事業の関連や行政手法などを解明しました。農林水産省図書館の資料のみならず、省の倉庫にあった予算資料などを活用しました。
 もう一つは、筆者が制度創設や事業批判に対する反論などに関わる度に、様々な雑誌に掲載した論考をまとめたもので、その時々の行政担当官の考え方が分かるようになっています。また、その背後にある筆者なりの農業や農村の捉え方を明らかにした論考も加えました。
 アジアモンスーンに位置する我が国農業は膨大な土地改良資産と投資の上にしか成り立ちません。そのため、農政の転換期には必ずと言ってよいほど大きな役割を果たしてきた農業農村整備事業について正確に理解することは、今後のわが国農業・農政の在り方を論じる上で大切です。さらにこの事業に膨大な人々が関与したという歴史的事実に照らし、事業の歴史的な意義を解き明かすことは社会的にも意義があるものと考えます。本書の出版がそうした視点から少しでも役に立つことを願う次第です。

(2008.10.23)