相互扶助による地域社会建設を提唱
家の光協会で長年編集業務に携わり、現在も農政ジャーナリストとして、農業・農村を守る視点から鋭い健筆を揮い続けている鈴木俊彦氏が表題の新刊書を出した。今、食料、原油の高騰や金融危機の発生で世界経済は深刻な事態に陥り閉塞感が重く圧し掛かっている。また、米国では、A・オバマ氏が政治・経済構造の改革のための挑戦を掲げ、それは可能だ!と訴えて米国史上初の黒人大統領の地位を獲得した。そのような折、資本主義市場経済や社会主義計画経済を超えた協同組合主義に基づく相互扶助の地域社会の建設を提唱する本書が出されたことは、まことに時宜を得たものである。
4部構成で、第1部「先覚者に学ぶ協同組合の理念」では、思想家たちをロバート・オーエンから丸岡秀子たちの滔々たる大河の流れで巡り、井戸を掘った先駆者たちをウイリアム・キングから太田寛一への偉大な足跡として振り返っている。韓国や中国の先人の紹介もあり、協同組合運動の歴史を見事に俯瞰している。
第2部「協同組合運動が直面する課題と再生の方向」では、困難な状況に直面している農協、漁協、森林組合、生協のそれぞれの課題を提起し危機克服の道筋を探った。とくに、中国製冷凍ギョーザ中毒事件などで深刻な打撃をうけた生協にとって事態打開のため必要なことは、「2010年ビジョン」で決議した事業活動重点改革課題にすべての生協が取り組むことだと促している。
第3部「農林漁業の動態と協同活動」では、東京新聞、本紙、協同組合通信など新聞各紙に寄稿した著者の所感集が収録されている。「協同組合主義の復活のとき」の欄で、高齢者、身障者、病人、幼児など社会的弱者への福祉の増強、格差拡大の防止、環境の保全など、協同組合が担うべき課題が山積している今こそ、産業組合運動者の「相互扶助」の理念を復活すべきだと訴えている。
第4部「協同のスピリットを求めて」においては、筆者の早大時代の大学生協から始まる協同組合運動に身を挺した自分史があり、また、協同組合の「聖地」として尊徳記念館、大原幽学遺跡保存館、益集社跡などを掲げ先人の遺徳を偲ぶ記述があり、感慨深いものがある。
1980年、第27回国際協同組合同盟大会(ICAモスクワ大会)で、カナダのレイドロウ博士が歴史に残る「西暦2000年の協同組合」という基調報告を行って、協同組合の思想の危機に警鐘を鳴らし「運動の原点」に立ち返るべきだと提言した。さらに、昨年7月。東京の『第85回国際協同組合デー』において、ICA会長イバノ・バルベリーニ氏が記念講演を行い、「競争社会のさまざまな矛盾は協同組合の行動なくしては解決できない」として、「安全性や倫理という価値を主張し、市場で実行することが重要だ」と強調した。
経済活動、社会生活での倫理観、弱者への思いやりの欠如が、地球的規模で現在の混迷を招いているのは明らかである。協同組合再生への指針として、筆者がレイドロウ博士、バルベリーニ会長の示唆に富む提言を特筆したことに共感を覚える。協同組合役職員研修や新人教育の参考書としてお薦めしたい。