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燃料か食料か―バイオエタノールの真実

燃料か食料か―バイオエタノールの真実
坂内久、大江徹男

【発行所】(株)日本経済評論社

【発行日】平成20年7月

【電   話】03-3230-1661

【定   価】2600円(税抜)

評者名:山内偉生
本紙論説委員

 2007年1月の大統領一般教書において、アメリカ政府は2017年までの10年間で国内のガソリン使用料を20%削減する政策を打ち出した。 同じ時期に、EUは首脳会議で、2020年までにEUのエネルギー効率を20%向上させる、温室効果ガス排出を20%削減する、エネルギー消費の20%を再生可能なエネルギー源によるものとするなどを決め、目標数値を加盟国の義務とした。それよりさきに、ブラジルは1990年以降、無水エタノールのガソリンへの混入率を20〜25%と義務づけており、サトウキビ系エタノール生産及び供給の先進的役割を果たしてきた。 21世紀に入り、世界では原油資源の効率的利用、CO2削減による地球...

 2007年1月の大統領一般教書において、アメリカ政府は2017年までの10年間で国内のガソリン使用料を20%削減する政策を打ち出した。
 同じ時期に、EUは首脳会議で、2020年までにEUのエネルギー効率を20%向上させる、温室効果ガス排出を20%削減する、エネルギー消費の20%を再生可能なエネルギー源によるものとするなどを決め、目標数値を加盟国の義務とした。それよりさきに、ブラジルは1990年以降、無水エタノールのガソリンへの混入率を20〜25%と義務づけており、サトウキビ系エタノール生産及び供給の先進的役割を果たしてきた。
 21世紀に入り、世界では原油資源の効率的利用、CO2削減による地球環境対策などの長期的視点に立ったエネルギー政策に先進諸国が積極的に取り組み始め、バイオ燃料生産拡大の勢いが一挙に高まった。とくに、トウモロコシを原料にする米国のバイオエタノール生産の増大は、トウモロコシ、小麦、大豆など世界の食用穀物市場の需給関係を圧迫し、異常な価格騰貴を招来したことは記憶に新しい。
 トウモロコシ、小麦など穀物やサトウキビのバイオ燃料化は、人類の食料に大きな影響を与えることは自明の理といえよう。一方で、地球環境に優しいバイオ燃料の重要性も否定できない。まさに「燃料か食料か」という人類生存の根源的課題に直面している折に、本書が刊行されたことは極めて時宜を得たものといえる。
 本書の編者たちは、もともとアメリカやカナダの農業生産、新世代農協活動などを広範囲にわたり研究してきたが、研究の過程で明らかになったのがバイオエタノールの急速な生産拡大がもたらす諸問題であった。
 本書によれば、現在、バイオ燃料の主要生産国は、1位がアメリカで世界のエタノール生産量(129億ガロン)の37.7%、2位がブラジルで 34.9%、3位が中国で7.9%、以下インド(3.9%)、フランス(2.0%)と続く。バイオ燃料生産はアメリカとブラジルの2国で世界の72.6%を占める。また世界の輸出量は20億6000万ガロンで、ブラジルの輸出量は約40%といわれる。アメリカは世界最大の生産国でありながら、輸入量が6億ガロンを超えエタノール燃料の最大の消費国でもある。東南アジアでは、中国の穀物系エタノールに対し、マレーシアやインドネシアの油椰子から生産されるパーム油が注目されている。
 いま、EU、中国、マレーシアでは穀物系のエタノール生産拡大政策の見直し(抑制)が進み、非穀物原料であるセルロース系原料の活用を推進している。
 わが国でも林野庁が木質系のバイオ燃料開発政策に取り組んでいるところだ。
 世界貿易機関(WTO)体制には、輸入国を守るための保障はない。輸出国の都合次第という一方的な片務条件の設定になっている。『この片務条件に基づいた交易のリスクを回避する仕組みを、その任に当たる政府が国の制度として設定しなければならない』と、本書は、食料と燃料の自給体制の確立の緊急性を訴えている。食料とエネルギーを海外依存に甘んじている日本人にとってまさに警醒の書といえる。(本紙論説委員 山内偉生)

(2009.02.17)