縛り上げられる都市農地
読み終えて何よりも驚いたのは都市農家の税金負担! その額と錯綜したシステムと将来の定め難さとが制度として宿命づけられている。
加えて市街化区域内の農地は68年以来建設省の所管であったとは、知らなかった。それもこれも都市農地は住宅や工場、道路用地に転用されるべきものと位置づけられ都市計画から相続税まで、あらゆる手段を持って追い立てられてきた結果であることが鮮明に理解できた。さらにアメリカの圧力まであったとは。
都市周辺に放置された農地、住宅やアパートに囲まれた小地片、穫り入れもされぬままに作物が立ち枯れ砂埃が舞う農地。その一方であっと言う間に進む無秩序な“開発”。建売やマンション、巨大なショッピングセンターや駐車場。大方の人々が日頃目にするこの風景に「何とかならないものか」との思いを抱いているはず。
著者はこれらの漠然とした“思い”に対し、「都市農業の存続」の一点を焦点に、その果たす役割、現状にいたる経過と原因、法制度の変遷や自治体、JAそして何より当事者たる都市農家の悩みや奮闘を詳細に教えてくれる。誰もが漠然とは感じていたが、それにしても都市農業・農地問題は「複雑で奥行きが深く、やっかいきわまりないもの(著者)」。これを解明し、位置づけ、豊かな実践例を引きながら「貴重な役割を果たす“財産”を次世代につなぐため」の提言を国土デザインの視点で示す。それが本書である。
都市農業・農地の維持には法的措置、税制の見直しが欠かせない。このためには何よりも先ず国民に都市農業・農地の実態を正確に知らせ、維持のための国民的コンセンサスを打ち立てたい。その思いが著者をして本書を刊行せしめた。
それにしても何と農業、農地、農家を巡る問題の複雑なことか。とりわけ都市農業は一層複雑且つ錯綜した法や制度にぎっしりと縛り上げられている。これでは身動きどころか息もできない。順を追って法や制度の変遷を辿ると、現状がより鮮明に理解できる。数字で示されてはじめて都市農業のシェアや消費者需要に応える重要な位置、生産以外の役割や機能、文化や防災上の役割が具体的に胸におちる。「わが国農業の基本…高度技術の発揮、高品質かつ新鮮・安全安心な農作物の供給、コミュニケーション等は都市農業において最もよく発揮されている」との主張に心から納得した。
広く市民に読んで欲しい本書だが、手始めに各地の図書館や公民館などの市民講座のテキストに取り上げてもらえないものか。農地の荒廃を憂い、小さな貸し農園を嬉々として耕す人々は数多い。こうした人々にその関心を少し広げてもらうような工夫ができれば、本書の刊行意図も満たされよう。それは必ずや我々全体の利益に資するはずだ。著者は勿論、危機感を共有する自治体やJA、あるいは独自の活動を展開する先進農家などのリーダーシップに期待したい。できれば私も参加したい。(小林綏枝 元秋田大学)