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農民も土も水も悲惨な中国農業

農民も土も水も悲惨な中国農業
高橋五郎

【発行所】朝日新書(朝日新聞出版)

【発行日】2009年2月28日

【電   話】03−3545−0131

【定   価】780円(税抜) 新書版253ページ

評者名:先崎千尋
茨城大学地域総合研究所客員研究員

中国農業の崩壊が意味するものは?  中国農業「崩壊」、日本人の「食」が滅びる! 本書の帯にショッキングな文字が踊る。タイトルもすごい。 輸入野菜の残留農薬問題、毒入り餃子事件、メラミン混入粉ミルク事件などは、相次ぐ国内での食品偽装事件とは異なり、それこそ「中国産の食品を口にすると、わが命が危ない」という意識をわが国民に抱かせた。 毒入り餃子事件は、まだ原因の究明がなされていない。それだけでなく、回収した製品を国内に回し、それで被害が発生したという最近の報道は、私たちに二重のショックを与えた。 中国国内の農業生産や加工流通、それが日本の食卓にどうつながっているのか。農業現場にまで踏み込んだ報道を...

中国農業の崩壊が意味するものは?

 中国農業「崩壊」、日本人の「食」が滅びる! 本書の帯にショッキングな文字が踊る。タイトルもすごい。
 輸入野菜の残留農薬問題、毒入り餃子事件、メラミン混入粉ミルク事件などは、相次ぐ国内での食品偽装事件とは異なり、それこそ「中国産の食品を口にすると、わが命が危ない」という意識をわが国民に抱かせた。
 毒入り餃子事件は、まだ原因の究明がなされていない。それだけでなく、回収した製品を国内に回し、それで被害が発生したという最近の報道は、私たちに二重のショックを与えた。
 中国国内の農業生産や加工流通、それが日本の食卓にどうつながっているのか。農業現場にまで踏み込んだ報道を待っていたが、やっとそのレポートを目にすることが出来た。
 著者の高橋五郎氏は愛知大学で中国農村経済学などを教えている中国農政研究の第一人者。現在中国の農村を支配している竜頭企業や農村に足を運ぶだけでなく、農場で土を手にし、耕作農民の話を聞くなどして、深層部にメスを入れたのが本書だ。
 構成は7章から成っている。「中国農業の崩壊が日本を飢餓列島へと導く」「農地から追い立てられる農民たち」「人間と農産物を死に至らしめる環境破壊」「食糧危機から食料危篤へ」「農地法改革とおふくろの味の復権」など、サブタイトルの方が面白いし、内容を要約している。
 これで分かるように、中国は日本の食料庫であり、それが枯渇したら、日本人は飢えたる民になる。その中国で農業の崩壊が始まっている。それは日本人の食の崩壊を意味する。さあ日本人はどうするのだ。これが著者の問題意識の根っこである、と私は読んだ。
 昨年の北京オリンピックに象徴されるように、中国経済は急速な近代化を遂げている。しかし農民はその近代化から切り捨てられ、農地を追われ、竜頭企業に安い賃金でこき使われている。毒入り餃子事件やメラミン混入粉ミルク事件は、農民から土地を奪い、儲けるためには手段を選ばずという資本の仕組みの当然の結果であり、日本の大手食品の資本も入っていることに注目したい。たまたま起きてしまったということではない。
 ではどうするか。著者は終章で「日本人に残された道」として農地法改革と「おふくろの味」の復権を説く。そして、日本の食の崩壊を防ぐ方策として、個人でできること、企業の力によるもの、国家の力によるものの3つに分けている。
 食を守るために個人ができることは、手作りにすること。コンビニやスーパーで加工食品を買ってきてチンするのは「袋の味」。それをやめて、母親の手作り、つまり「おふくろの味」にしようということだ。
 一方、今や農業発展の足かせとなっている農地法を改正し、非農業者が農業に参入できるようにすべし、というのが国家の力だと言う。
 今、我が国では米の生産調整を含めて、農政の根本からの見直しが必要になっている、と私も考えている。中国に頼らないで済むような我が国の農業をどう立て直すのか。本書はその検討のためにも参考になる。

※評者 先崎氏の「崎」の字は、本来は旧字体です。

(2009.03.06)