農林中金理事、全中常務理事、協同組合経営研究所理事長、日本有機農業研究会理事長を歴任された一楽照雄さんの伝記「暗夜に種を播く如く・一楽照雄伝普及版」が、このほど、(財)協同組合経営研究所と(社)農山漁村文化協会によって復刻刊行された。
なぜ、今、本書を復刻刊行するのか。協同組合経営研究所は、『復刊にあたって』において、その所以(ゆえん)を熱く述べている。見事な文章なのでそのまま紹介したい。
「経営と運動、事業と組織の矛盾的統一体としての協同組合の難題に真正面から取り組み、また、有機農業とは技術的様式の問題ではなく生活上の価値観の問題である、と喝破した一楽の足跡は、百年に一度といわれる危機の今、静かに学び直す絶好の時機と思います」とあり、全く同感だ。
本書は、1995年12月に『「一楽照雄伝」刊行会(発起人会代表阿部玄氏)』の元で、榊春夫氏を委員長とする編集委員会の手によって纏められ、農山漁村文化協会が出版したものの復刻である。第1部は、「一楽思想」とは、第2部は、協同組合運動から有機農業運動へ、第3部は、人柄と思い出、の3部で構成され、協同組合・有機農業運動に捧げた生涯が大河の流れのように記されている。
一楽さんの行動の根底には、「自立・互助」の精神が脈打っていた。グローバル化した資本主義社会の破綻に苦しむ今こそ、「今日の世界を支配しているこの自由主義思想に対抗するものとして、協同思想・相互扶助原理を人間行動の原理にすえるべきだと思う」という一楽さんの言葉が鮮烈に甦る。
全中常務になって最初に取り組んだのは、農協理念の徹底を図るための役職員教育であった。農協の体質改善は、役職員の思想改造からという執念に燃え、昭和34年から特別講習会が開かれた。初年度は6回開催し、参加者は1553人に達した。伊勢市の伊勢神宮会館で行われたので「伊勢講」と称されて、昭和30年代の終わりまで続いた。当時、全中の若い職員の中で、「酒は三楽、全中は一楽と名が響く…」体質改善運動の教祖さまと畏敬の念をもって歌われた。
有機農業研究会設立に尽力し、「有機農業運動は、世直しのために立ち上がる入り口だ。その過程に真の自立があり、互助の精神が加わって本物になる」と説き続けた。人材育成は、暗夜に種を播く如くだが、必ず同志は育つと信じていた。協同組合関係者の座右の書にしたい。