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現代JA論 -先端を行くビジネスモデル-

現代JA論 -先端を行くビジネスモデル-
福間莞爾
農業経済学博士

【発行所】全国協同出版

【発行日】2009年6月15日

【電   話】03-3359-4811

【定   価】2,626円

評者名:白石正彦
東京農業大学名誉教授

日本の総合農協のモデルは、戦前の産業組合から続く実質的な100年モデルである。本書では、この100年モデルを「総合農協の経営組織モデル」として検証・整理し、このモデルをもとにJAの今後の戦略展開の方向と展望について明らかにしている。

新地平を拓く、総合農協の経営学的解明

 世界同時不況の中で、GM(ゼネラルモーターズ)が破綻した。GMのビジネスモデルは、自動車産業における世界標準モデルであり、86年間続いた。ひるがえって、日本の総合農協のモデルは、戦前の産業組合から続く実質的な100年モデルである。本書では、この100年モデルを「総合農協の経営組織モデル」として検証・整理し、このモデルをもとにJAの今後の戦略展開の方向と展望について明らかにしている。
 本書の構成は,第1章で経営とは何か、第2章で総合JAの経営組織モデル、第3章で甦る経営理念、第4章で変革期におけるリーダーシップ、第5章で経営戦略、第6章でPDCA、第7章で企画室・機能、ブレイン(知恵袋)、第8章で組織戦略、第9章でマーケティング戦略、第10章でモチベーション、第11章で財務戦略、第12章でリスク管理、内部統制、コンプライアンス、終章でマネジメント転換の方向と今後の展望を明らかにしている。

◆JAの「企画力」を提言
 注目される点は、第1に、総合JAの経営組織モデルの中で、営利企業が模倣できない総合農協の強みであるテクニカル・コアが「組合員の協同活動」であり、それを土台として営農・生活活動の助長・推進など「インプット活動」が、各事業成果としての「アウトプット活動」に連結する経営学的メカニズムを解明している点である。
 第2に、総合農協が合併による合体状態から脱して高度の自己責任経営を実現するために組合長のリーダーシップによるトップダウン的な総合企画機能の拡充、すなわち「企画室・機能はイノベーション(経営革新)にとってインキュベーター(孵卵器)である」という指摘は注目される。

◆協同組合の「特性」の徹底
 第3に、広域合併の総合農協の有能な人材が農協本店に集中されざるを得ない段階をいかに早く脱出して、総合農協の基幹支店や営農生活センターにおける職員と組合員の協同活動や組合員の協同活動を重視して有能な人材を配置したボトムアップ型の経営革新を進化させるための地域分権型のマネジメントの構築や役職員の意識改革とそのための自己啓発、教育研修の地道な取り組みを提言している点が注目される。
 第4に、JAの将来構想について、持ち株型協同会社組織、ネットワーク型組織化には慎重さが求められ、協同組合としての自らの組織についての特性・優位性の理解とその運営装置の徹底した活用こそが、今、最も重要な点を強調し、注目される。
 以上のように、本書は総合農協の基本的諸課題を内発的に、かつ高い次元に進化・止揚するための総合農協の経営組織モデルの先端を切り開きたいという著者の情熱、願いが込められ、また、経営学や協同組合論の研究蓄積を考察しつつまとめられた力作であり、総合農協の役職員のみでなく広く非営利組織のマネジメントに関心のある多くの方々に読まれることを期待したい。

(2009.06.29)