最初に、本書の構成を示すと、「第1章 問われている食料の安全と安定」、「第2章 食料確保対策と農政の展開過程」、「第3章 米の価格・所得政策と水田農業」、「第4章 食料主権と日本農業の再生」、「補章 韓国における直接支払制度」、となっている。
◎当面する主要課題を論述
ここで、補章を除く各章での主な内容を列挙すると次の通りである。
<第1章>中国冷凍ギョウザ事件など最近の食品偽装事件の実態と発生要因→とくに加工食品の輸入実態と問題の検討。原料原産地表示および食料輸入制度の実態と改善方向。生産と消費からみた世界の食料需給とわが国の食料問題。
<第2章>1960年以降における食料自給率の期間別低下実態と農政動向。基幹産業中心の輸出依存政策と農業政策の問題。食料自給率目標の設定・改定と2015年度目標の問題点。食料自給率を向上させたイギリスの経験。
<第3章>米価下落の実態と稲作所得問題。生産費を基準とした価格・所得政策の再構築と備蓄対策。「経済的誘導策」による生産調整の改革方向。農業総生産増大を目指した「水田総合利用向上対策」の実施。飼料用稲の生産増大対策と「総合的飼料安定供給対策」の策定。MA米の管理問題。
<第4章>食料主権の決定内容と特徴および最近の動向。BSE問題の対米協議にみる主権国家としての日本の対応問題。日本農業の特徴と家族経営を基本とした「日本型農業」の確立。地域格差拡大の実態と問題点。農産物直売所からみた地域づくりと農業再生の課題。
◎食と農の現状改善が急務
わが国の食料と農業の実態をみると、人間に例えれば重病患者にいろいろ治療が施されているが、一向に回復しないのに似ている。
本書を執筆したのは、その改善が緊急の課題であると思ったからである。多発する食品表示偽装と輸入実態、食料自給率の目標設定と向上対策、米価安定と生産調整問題、水田利用度向上対策など、目下政府で検討中の農政上の重要課題について対策方向を述べているのもそのためである。
現在、一般の新聞や週刊経済誌なども食料・農業問題を特集した記事を掲載し、また多くの単行本も発行されている。農業への就業や農村生活の紹介も多い。しかし、「高米価」や自給率向上などへの批判も根強いので、こうした“ブーム”は情勢が変化するとすぐ消え去る危険性もある。したがっていま重要なことは、食料と農業の現状を改善し、本当に国民の期待に応えられるようにすることである。この小著がその一助になれば幸いである。