日本有機農業研究会の佐藤喜作理事長から、「いい本ですから読んでください」と本書を頂戴した。早速、読ませて頂いたが、土壌学に無知な凡才だが、著者が投げかけた「土は生きている!人類の生存と将来は豊かな土壌を守ることだ!」という真摯な訴えに粛然とした。
自らも野菜栽培中心の有畜経営を実践した著者のエアハルト・ヘニッヒ氏は、1906年(明治39年)ドイツ・ドレスデン生まれ、1998年92歳で逝去。研究者としての途を歩みつつ、40歳から有機農業を実践した。本著は、ヘニッヒが88歳のときに出版された。
原題は『豊かな土壌の秘密』であり、ドイツ語版では6版を超え、すでに英訳も出版され世界中で読まれている。
この度、中村英司先生(元滋賀大学教授)の大いなる努力によって日本語に翻訳されたものである。くしくも、訳者が翻訳書を出版された本年は、原作者がドイツで原著を出した年齢と同じ88歳になるという偶然の一致もある。日独の練達なる老学者の徹底した研究姿勢には、心底から頭が下がる思いだ。
◆豊かな土壌と重要な腐植の働き
地球の地穀の最上層部の主として10―30cmだけが腐植を含む部分である。この薄い地表が「人間の生命維持に役立ち、そこから食物がつくり出される。この30cmの土壌によって人類の運命が決まるといえよう!」とエアハルトは喝破している。「はしがき」において、佐藤理事長と魚住副理事長は、「有機農業の核心は堆肥であり、腐植である。腐植とは落ち葉や堆肥などの有機物が土中の微生物の分解作用を受け、土壌有機物として残ったものの総称である」さらに、「豊かで肥沃な、生きている土とは、ミミズなどの小動物や目に見えない膨大な数と微生物が生息している土である。腐植は、それら土壌生物や微生物の食べ物であり、住処だ。腐植が土壌生物や根の働きなどを通してさらなる腐熟を続け『熟土』をつくり・・・滋養分に富む植物=食べ物を育んでいくという総合的な腐植と熟土の織り成す有機の世界を豊かに描き出した」とエアハルト理論の核心部分を鮮明に紹介している。
◆手のひら一杯の土に無数の土壌生物
ドイツの農学者ラウル・フランセが記した『耕土の中の生物たち』をエアハルトは引用し、土壌生物(エダフォン)の活動について熱く述べている。1グラムの良い土壌の中には数千万、数百万の微生物棲んでおり、片手に盛り上げた良い土壌にはこの地球上の全人口よりはるかに多い生物が生きているのだ!と。
16世紀の植物学者G・ホワイト、19世紀の進化論のC・ダーウインの先見性に言及しながら、薄い表土の中で、腐植を進め熟土を生成し肥沃な土壌をつくるミミズの活躍を判りやすく教えてくれる。
熊澤喜久雄先生(東大名誉教授)の「日本語版に寄せて」が、本書の読者の理解を深めるこの上のない手引きになっており、自然界の秩序の原則の項ではエアハルトの論旨が見事に凝縮されている。多くの方々に読んで頂きたい。