『旧約聖書』によると、人(アダム)は「土」から造られ、アダムの肋骨から女(エバ)を造ったとある。しかし女は、狡猾な蛇に唆されて禁断の実を食べてしまい、2人は「エデンの園」を追放され、額に汗して地を耕し、パンを食らい、最後は土に還る運命を負わされたという。
このような「人(生物)は、土から造られ、土に働きかけ、その恩恵を受けて生かされ、最後は土に還る」という神話や物語は、古今東西を通じて多くある。
このように、「身土不二」つまり人間の身と土(食べ物)は不離一体のものであるという思想、「生と死」の再生・循環・共生という考え方、中国の陰陽五行思想や日本の安藤昌益に見る「土徳」の礼賛、「大地母神」「地霊(ゲニウス・ロキ)」「産土神」などの信仰の根拠はここから生まれてきた。
「農業」のラテン語、漢字の語源も、「地を耕す文化」にあることはよく知られている。古代文明も「土」と「水」を拓き、保全管理し、灌漑農業を起すことから発生した。しかしこの「土」と「水」の保全管理ができなくなった時、文明が滅んだということは歴史が教えることである。
本著は、このような「土」に関する人間・思想・歴史・文化・文明・農業・衣食住・芸術・文学などについて、フォークロア(民俗学)の視点からアプローチを試みたものである。本のタイトルもプロローグも、「武士道」に負けない「農民道」ともいうべき森村誠一の『土の魂』の紹介から始まっている。