食文化の滔滔たる流れをたどる
「木の芽して往くも還るも旅なかば」。力のある取材者だからこその謙虚な句が、あとがきの謝辞に続く。既刊書に、『日本の朝ごはん』(新潮社文庫)、『米ぢから八十八話』(家の光協会)、『本物にごちそうさま』(ポプラ社)、『一食一会』(小学館)等のある気鋭のフードジャーナリストが「点を追うばかりでなく、食の流れを線や面としてとらえられないだろうか」と発心し、各地へ通い、関わる人々との密な関係を築きあげた上での、食の街道風土記。
「食べものは、人間のいのちを日々つむいでいく必需品であり、人間の力によってつくられ、運ばれ、調理され、そして口に入る。その一部始終を俯瞰しながら考察する―そんな俯瞰食文化学を初めて実践したのが、本書である」とは著者の矜持。その通りの見事な道筋が人々の暮らしとともに描き出されている。
構成は、第一部、海辺から山への道。第二部、海上の道、第三部、権力者がつくった街道。第四部、渡来食品が伝わった道。そこに鯖街道、ぶり街道、塩の道、鮑の道、昆布の道、醤油の道、鮎鮨街道、お茶壺道中、砂糖街道、豆腐の道、唐辛子の道、さつま芋の道が配されている。わたくしは、自身の生まれ在所に関わる道から読み始めることに。
富山湾、氷見から、富山、猪谷、岐阜県古川、高山、野麦峠へのぶり街道である。山国、飛騨高山での行事、年取り(大晦日の夕食)はぶりで寿がれる。時間をかけての丁寧な著者の関係作りの恩恵を、読者はたっぷりと味あわせてもらえる。仰々しくない抑制のきいた文章がさわやかで爽快です。
次にひらいたのは「さつま芋の道」。JAひたちなか発売の干し芋焼酎「へのかっぱ」の命名、ラベルデザインの担当者として当然のこと…。どの街道を選ぶかも楽しい。仕入れたうんちくを語りたくなってムズムズしてくる…。愉快な現象を伴う本です。