ブックガイド

ブックガイド

一覧に戻る

昭和を彩った 作家と芸能人

昭和を彩った 作家と芸能人
鈴木俊彦

【発行所】国書刊行会発行

【発行日】2010年5月

【電   話】03-5970-7421

【定   価】1800円(税別)

評者名:山内偉生

 家の光協会で「家の光」、「地上」の編集者として、懐かしくも輝かしい昭和時代に活躍した著者が、実に興味深い本を出した。40年という長い年月の取材活動を通して、多くの作家や芸能関係者との交流で生まれたエピソードを時代背景とともに描きだしたもの。
 尾崎士郎、今東光、源氏鶏太、平林たい子、司馬遼太郎、池波正太郎など超弩級作家たちの人生哲学、死生観が寸描されている。

 家の光協会で「家の光」、「地上」の編集者として、懐かしくも輝かしい昭和時代に活躍した著者が、実に興味深い本を出した。40年という長い年月の取材活動を通して、多くの作家や芸能関係者との交流で生まれたエピソードを時代背景とともに描きだしたもの。
 尾崎士郎、今東光、源氏鶏太、平林たい子、司馬遼太郎、池波正太郎など超弩級作家たちの人生哲学、死生観が寸描されている。
 登場する作家のなかで、農業の行く末を案じ、農村、農家に暖かい視線を注いでいる作家との挿話を取り上げたい。まず、旧満州からの引き上げ体験を描いた「流れる星は生きている」の藤原てい。夫君であり「強力伝」で有名な新田次郎、「国家の品格」で喝采を博した数学者新田正彦との家族愛の話が良い。また、農村・農協への厳しいが温かい心配りが胸に沁みる。
 ついで、「蝉しぐれ」など東北地方を舞台にした時代小説の旗手で、故郷山形県庄内地方に深い情愛を注いだ藤沢周平。出羽三山の羽黒山麓に住む山伏を主人公にした、「春秋山伏物語」が家の光に連載(後に単行本となる)された経緯などは興趣溢れる話だ。著者が地上編集部の当時、兵隊小説「蛍の河」で名をなした伊藤桂一と女流大作家である「御宿かわせみ」の平岩弓枝の二人が、「地上文学賞」の選考委員であった関係で交流が深くなった。小説づくりに寄せる二人の情熱に驚嘆し、編集者として「至福」を感じたとのこと。
 絢爛豪華な作家たちとの取材・交流は、JAグループ家の光という本邦最高の発行部数を誇る家庭雑誌の編集者であったから可能であったと思う。
 苦言を一つ。美人女優山本富士子の取材「わたしの夫婦論」(作曲家の夫君丈晴氏同席)の記述が2箇所に登場するのは極めて残念だ。美人に弱い著者ゆえに許してあげたいが、これまで、名編集者として築いてきた地歩を大切にして欲しい。ともあれ、読んで楽しくなる本である。

(2010.09.16)