21世紀の佐久病院は?
佐久総合病院の友から、「農村医学夏季大学が今年で五十回になったので、大型の企画になり、会場もこれまでの二倍収容できるホールにした」という手紙と若月さん(と呼ばせていただく)の生誕百年記念復刊の『信州の風の色?地域農民とともに50年』が届いた。
若月さんの本は『村で病気とたたかう』(岩波新書)など多数ある。本書は1993年から佐久病院で開かれた「若月塾」の講義をまとめたもの。話し言葉で書かれているので分かりやすい。15年前の佐久病院50周年に合わせて出されたが、絶版になっていた。今回は地域の住民からの強い要望で復刊された。
本書は、東京で生まれて、東大医学部から分院の時代、佐久病院から、地域の民主化を求める、農村医学の展開など八つのテーマから成っている。『村で病気とたたかう』にも触れられていない少年の頃や学生時代のこともかなり詳しく語られており、昭和史との関係、「若月イズム」の形成にどうかかわってきたかなどが分かる。
若月さんの生涯における最も大きな目標は、医療の民主化だった。「地域の健康はだれがつくるか。それは地域住民がつくる。私ども医療関係者は、専門の立場からそれにアドバイスし、これを援助する。健康という、生活に一番重要な問題は、住民の自主性の立場から取り上げねばいけない」。
本書の冒頭に「今日、佐久病院は大きくなったけれども、昔の精神が病院のみんなに浸透していないのではないか。特に病院の若い人たちに」とある。現在の医療現場は、若月さんが佐久へ入った頃とは大きく変わっている。なによりも医師不足。どうしてこうなってしまったのだろうか。一方で医療技術の高度化、ドクターヘリの活躍などもみられる。
そのようなことを考えながら、本書を読むと、底流にある若月さんのヒューマニズム、ロマンチシズムが随所に感じ取れ、あのゆっくりとした、ていねいな語り口が脳裏によみがえってくる。本書を農協の生活活動担当者にお勧めしたい。