自著を語る
世界と日本、そして食卓―
つながりを「考える」ための書
生徒が20人程度の比較的こじんまりしたクラス。ひとりひとりの反応を確かめながら進める授業。そんな気持ちで執筆した。
入門書であるから、まずは基礎的な知識を伝える仕事に意を用いたつもりである。世界の穀物貿易、日本の食料自給率、農村コミュニティの役割などなど、この1冊で現代の食と農の全体像を俯瞰できるはずだ。
けれども、本書の真のねらいは知識の伝達を超えたところにある。ひとことで言うならば、若い読者に自分自身で考えてもらうための、いわば道案内の書として書き綴った。知識は考えるための準備だというわけである。文章も対話を進めながら丁寧にステップアップしていくスタイルをとった。ともに考えを進めていくスタイルと言ってもよい。
考えるテーマとして、初歩的な問題から超のつきそうな難問までを配置した。
日本に兼業農家が増えたわけや、生産額ベースの自給率がカロリーベースよりも高いわけといった問題は、初歩的なテーマである。緑の革命が進展したにもかかわらず、途上国の栄養不足人口が減っていないのはなぜか。このあたりの問題になると、一筋縄というわけにはいかない。
さらにワンランク上の設問。先進国の農業保護に対する途上国からの批判を、日本の私たちはどう受け止めればよいだろうか。こうなると、超のつく難問だと言ってよいであろう。
本書は「世界の食料、日本の農業、そして毎日の食卓のつながりを授業形式で分かりやすく伝える」(11ページ)ために書かれた。ただし、取り組んだテーマの深さからもお分かりのように、中身のレベルを落としたつもりはない。この点、専門家がお読みいただければ、同意していただけるのではないかと思う。その意味で、大人の皆さんに手にとっていただいても、それなりに得るところがあるのではないかという気持ちもある。