自著を語る
協同組合本来の農協をめざす
最近の農協批判には協同組合自体を否定するような特徴がみられる。この批判に対しては協同組合陣営が一体となった反批判が必要であるが、何よりも農協が協同組合の価値と原則に基づいた取り組みを強化することが不可欠である。本書はこうした問題意識から、とくに運動面に焦点をおいて執筆した。4章構成で、内容は以下の通りである。
まず第1章は「農協の設立目的と産業組合」である。ここでは農協法案審議で強調された「組合における農民主体の確立」、「行政庁監督権の制限」などが現在もなお十分に達成されているとはいえないが、その要因は産業組合の設立目的とも関連するので、とくに戦前の農山漁村経済更生計画運動を検討し、歴史的にみた農協改革の課題を明らかにした。
第2章の「農政展開と農協の農政運動」では、政権交代により農協農政の在り方が改めて問われているので、「政治的・宗教的中立」と「自治と自立」について検討し、これまでの経過を辿りながら、協同組合原則に基づいた農協農政の展開方向を示した。
第3章は「農協の組織・事業と協同組合原則」である。経済情勢が厳しい現在、農協には私企業と同じ論理で経営維持を強める傾向もあるが、「協同組合の『成功の鍵』は自らの原則を注意深く適用することにある」(ICA決定)。ここではこうした観点に立ち、協同組合本来の在り方から見た組合員・地域本位の組織と事業について究明した。
そして最後の第4章の「現代における協同組合と農協の役割」では、まず、協同組合は人間性回復を目指した広範なヒューマニズム運動の一翼として発展したことを示した。その上でオウエンの「協同社会」、レイドロウの「協同組合地域社会」の理念を検討し、格差のない地域社会建設と農業・農村の再生における農協の重要な役割を明らかにした。
昨年12月、国連は2012年を「国際協同組合年」とする宣言を採択した。これを受けわが国でも全国実行委員会が結成されて取り組みも始まっている。この小著が協同組合の認識を深め、農協がこうした取り組みを発展させる上で多少なりとも参考になれば幸いである。