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自然資源経済論入門1 農林水産業を見つめなおす

自然資源経済論入門1 農林水産業を見つめなおす
寺西俊一、石田信隆

【発行所】(株)中央経済社

【発行日】2010年11月10日

【電   話】03-3293-3381

【定   価】3600円(税抜)

評者名:小林綏枝(元秋田大学)

 目に新しい「自然資源経済論」とは何か、これは編者寺西俊一氏の造語。「各種の自然資源を基礎とし、その上に成り立つ経済」との意味が込められている。農林中央金庫からの寄付を受けて一橋大学が立ち上げたプロジェクトの講義集が本書であり、続いて「農林水産業の役割を考える」「農林水産業の未来を考える」が刊行されると言う。本書に盛られた内容を論じるに紙幅は余りに狭い。

農林水産業は国民の宝

 目に新しい「自然資源経済論」とは何か、これは編者寺西俊一氏の造語。「各種の自然資源を基礎とし、その上に成り立つ経済」との意味が込められている。農林中央金庫からの寄付を受けて一橋大学が立ち上げたプロジェクトの講義集が本書であり、続いて「農林水産業の役割を考える」「農林水産業の未来を考える」が刊行されると言う。本書に盛られた内容を論じるに紙幅は余りに狭い。いきおいつまみ食い的感想に終始せざるを得ないが、それでは内容に対して余りにも礼を欠く。これが第一の感想である。第二は「おもしろい」。
 各講義は具体的でしかも実践を踏まえて語られるので、門外漢にも臨場感が伝わる。その一例が第7章農業の多面的機能(荘林幹太郎氏)や第9章農林水産物と野生動物問題(羽山伸一氏)である。前者は情緒的に語られがちな多面的機能を国際機関の論議やOECD政策レポート作成に関わった体験を通して示す。
 読み進むと何故か痛快で胸がすく。後者は今や全国民的課題、困った動物ごとに具体的な対策を示す。勿論すぐに効果を挙げるものだけではないが困ったの繰り返しや、効果の程が不確かな策や考え方の整理に役立つはずである。
 これら以外にも学ぶべき視点や内容は数多い。第1章で編者の一人吉田信隆氏は「食料は権利」と自由貿易拡大の中での食料に対する権利侵害を指摘する。そして宇沢弘文氏の主張、社会的共通資本とその管理を具体化し推進するためにこの自然資源経済論は構想されたと言う。
 願わくは後続シリーズの刊行の早からんことを。さらに願わくは本書に基づいてこそ例の「事業仕分け」はなされるべきであろう。せめて農林水産予算だけでも。そして第10章に言う国民から課せられた農業・農村問題への「7つの要請」(自給率向上から集落崩壊阻止まで)が一つずつ解かれ前進することを切望する。

(2011.03.17)