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食料主権のグランドデザイン

食料主権のグランドデザイン
村田武編著・山本博史・早川治・松原豊彦・真嶋良孝・久野秀二・加藤好一

【発行所】農文協

【発行日】2011年2月20日

【電   話】03-3585-1145

【定   価】2600円(税抜)

評者名:北出俊昭

 本書は序章、終章を含め章構成で、研究者と実践家の「共同生産物」である。
 タイトルからも明らかなように、強者の「論理」を排した「食料主権」、「食料への権利」重視の真の国際連帯運動を強め、「アメリカの食料の傘」から脱却した日本農業の再生と食料自給率向上の課題を総体的に検討したものである。こうした「権利」を重視したオルタナティブの提示は類書にみられないことである。

「権利」を重視した真の食料安定を求めて


 本書は序章、終章を含め章構成で、研究者と実践家の「共同生産物」である。
 タイトルからも明らかなように、強者の「論理」を排した「食料主権」、「食料への権利」重視の真の国際連帯運動を強め、「アメリカの食料の傘」から脱却した日本農業の再生と食料自給率向上の課題を総体的に検討したものである。こうした「権利」を重視したオルタナティブの提示は類書にみられないことである。
 本書でまず第1に注目したいのはWTO体制と現在の食料需給状況の認識についてである。本書はアメリカ、EUの農業政策を検討し、自由貿易体制とその下での所得政策と構造調整を中心に、市場・効率論理に基づく政策の問題点を鋭く指摘している。また、多国籍企業による農業技術の支配介入などについても述べているが、とくに遺伝子組み換えで除草剤耐性や害虫抵抗性など二つ以上を保有する「スタック」(第2世代GM)の増大が指摘されている。これは極めて重要なことである。
 第2は「食料主権」、「食料への権利」について、運動面と理論面の両方から検討されていることである。前者については既に世界の社会運動の中心の一つとなっているビア・カンペシーナの理念と活動経過が、筆者の体験も交えながら述べられている。
 また後者については国連の宣言、規約をもとに国際人権レジームの発展を辿った上で、政治経済的政策課題としての「食料安全保障」と権利保持者である個人とその主体形成に焦点がある「食料への権利」との相違が指摘されているが、この相違は今後の政策策定と運動展開の両面からみて留意すべきことであろう。
 第3は実際の政策と運動展開についてである。カナダの農産物マーケティング・ボードの紹介はわが国の価格所得政策を考える上で貴重な示唆を与えるものである。また、タイの農村社会開発や生活クラブの「生産する消費者」を理念とした運動は、「強者」に対抗した協同組合の現代的役割の重要性を示しているといえる。
 いずれにしても東日本大震災からの復興に関連し、財界などから改めてTPPへの参加が主張されている現在、本書の内容が広く徹底されることを期待したい。

(2011.04.25)