体験的、実践的都市農業論
第1部は「『農』は人と街を元気にする」と題して蜂須賀さんの執筆。都内で農業体験農園を営む富岡誠一さんと、日野市で学童農園を開設している小林和男さんのお話が軸。
富岡さんは学校給食と学童農園から体験農園に進んだ。小林さんも今年から体験農園を開設するという。子供から大人へ、学校から地域へ、都市農業の魅力と恩恵が拡がっていくプロセスは似ている。
蜂須賀さんも田舎暮らしにあこがれつつ踏み切れず、できれば都会に住みながら農的な生活もしたいと欲張っていたが、以上の大きな流れのなかで、それが可能な気がしてきた。そして「いいとこどりでどこが悪い」と開き直る。農住食職の接近としての都市農業だ。
第2部は「『農』を街につくる」として櫻井さんの執筆。「都市農」に関するこれまでの政策と、それに対する政策的提言を軸としたものだ。そういうと固く聞こえるが、第1章は定年を10年後に控えて農業体験農園に飛び込み、ついに「地域デビュー」を果した本人の体験談が軸で、歳こそ違え、同じ悩みをもつ評者も妙に身につまされて読まされた。
「都市農」も櫻井さんの造語のようで、「都市の農業・農地がもつ総合的な力」に着目したものだ。言葉上は、「農業」から「業」(なりわい、経済活動) の面をとったのが「農」だが、それが経済活動としてもきちんとなりたち、人のメンタル面のケアも含めて大きな意義をもち、それゆえに都市計画のなかにもきちんと位置づける必要性を説く。第2部の魅力はそのための具体的な政策提言をしている点だ。
本書は東京、首都圏が主な舞台だが、今や都市農業はネパール・キューバからデトロイトまで世界的に都市農業運動として注目されている。次はそういう話も紹介して欲しい。