異色の生協論
著者は1990年代、パルシステム生協連合会のトップを歴任した。その意味では下山保著『異端派生協の逆襲』(2009年)に次ぐ。前著についても本紙書評欄で取り上げたが、比較して読む価値があると思う。副題「生協オヤジが伝えたい食の文化と安全」。とりあえず、章立てを書き写しておく。
序章 食は風土に依存する文化である
第1章 おいしくて安心な食を作る
第2章 おいしい「日本」を食べる
第3章 日本人が育てた知恵を味わう
第4章 日本の食を守るサムライたち
第5章 グローバル時代の食の危機
本書の特徴の第1は、なんと言ってもいわゆる市民生協と育ちも成長もまったく違う。そういう出自の生協論だということ。一般に市民生協は日本生協連の主流を形成し、「多数者の生協」といわれる。コープこうべ、首都圏のコープネットに代表される。組合員の多様な意見を大事にして、社会的発言や運動実践に消極的または禁欲的である。
一方本書、どことなくタイトルはやわらかく、イデオロギー的硬さが無い。ただし、厳しい指摘がある。
「食の文化や歴史遺産を大事にしない国は、国民の暮らしを大切にするとは思えません」
「食べても問題のない食品が、日々無造作に捨てられている現実からは、飢えがなくなった国の傲慢を感じます」
第2の特徴は産直事業の歴史的証言が鮮やかに記録されていることだ。著者によれば、狙いは「草地型酪農」。「動物の生理を生かし、他の農産物を生産できない環境でおこなう酪農」。「こんせん72」として、10年の歳月をかけて牛乳産直事業はゴールした。交渉相手がホクレンだから、興味津々である。この事情は米産直の新潟県旧笹岡農協の場合も同様である。いわば国家管理の米政策に対抗する決意であった。著者が北多摩生協専務時代を浮き彫りしている。
第3は、丁寧な食品開発物語だろう。興味深く、本書の圧巻でもある。