「創造的復興」への警告の書
N・クラインは1970年生まれのカナダの女性ジャーナリスト。この大冊のエッセンスは副題に要約されている。「惨事便乗型資本主義」とは、国家の破壊や崩壊、自然災害といった「惨事」に便乗して儲けまくる「災害資本主義」をさす。
カナダの精神病理学者が、拷問的な「ショック療法」で人格を破壊し、幼児の白紙状態に戻すと、新たな人格を植え付けられるとした(実は破壊された人格が残るだけ)。CIAがそれを拷問・「自白」に応用し、あるいは別人格に仕立て上げた。
この「ショック・ドクトリン」の経済版が、フリードマンらのシカゴ学派の新自由主義経済学だというのが本書の主旨だ。彼らは完全な自由市場さえあれば全てがうまく行くと考える。しかし現実の経済は国の規制や制度、慣習があり、自由ではない。そこでクーデタ等の「ショック」で国家を「更地」化し、そこに完全自由市場という「新たな人格」を植え付けようとするわけで、フリードマンの弟子達はクーデタ等にも関与していく。
結果は、国営企業が民営化され、国家や自治体の機能がアウトソーシングされて、アメリカ等の多国籍企業の手中に入り、彼らは復興の補助金等も独り占めして「焼け太り」する。クラインは、チリ等の中南米、サッチャーのイギリス、社会主義政権崩壊の東欧、ソ連、天安門の中国、イラク、大津波のスリランカ、ハリケーンのアメリカ、そしてイスラエルと世界的な規模でこのドクトリンを実証する。
あれ、これはどこかでみた光景だ。TPPで日本の食料自給率を13%に落す。そして東日本大震災と原発事故。それに対して大規模経営化と企業の農漁業参入という「創造的復興」の処方箋…。2011年は災害資本主義の日本上陸の年である。彼女は、それに対抗するには、このドクトリンの何たるかを知り、「ショックから覚醒」することだという。つまりまず本書を読むことだ。高価な大著だが敢えてお薦めする理由である。