「前向き」に望ましい農協の在り方を追求
最近の農協問題での重要な特徴は本来の協同組合としての在り方が重視されていることである。本書はこうした課題に応える内容で、日本社会の復興と発展にとって意味のある「前向き」な制度改革を検討しているところに特徴がある。
本書は序章のほか、「第1部 わが国総合農協制度の課題と展望」および「第2部 農協制度改革をめぐる海外の動向」の2つで構成されている。
まず序章では本書の中心的課題が総括的に示されている。ここでは准組合員が正組合員を上回る実態が進んでいることは、農協法が「本来の組合員」として想定していない非農業者の増加を意味しており、農協制度の目的は何かという「そもそも」の議論に発展する問題であるとする。これは「共益」に限られない「公益」の目標付加の課題を提示していることでもあり、本書は農協の農協法理念・体系の再検討を目指しているといえる。
以下の論考はこうした問題意識を共有した内容となっている。例えば第1部では正組合員の異質化・多様化および准組合員の増加で「組織」と「利用」の乖離が拡大している事例や准組合員への共益権付与の主張および混住化した農村地域の再生における農協の役割が重視されているのも同じ考えからである。
農協が本来の協同組合を目指す上でも、第2部で述べられている協同組合の国際的動向の認識は不可欠で、最近の特徴が簡潔にまとめられている。もちろん各国・地域により実態は多様であるが、日本の農協の制度問題を考える上で極めて興味ある実態が述べられている。これで読者は多くの貴重な示唆を受けることであろう。
いずれにしても国際協同組合年を来年に控え、東日本大震災と原発事故に見舞われた現在、協同組合が果たす役割への期待が改めて強まっているので、本書が多くの読者を得ることを心より期待したい。