3・11東日本大震災と東北地方のあり方が多方面で問われる。著者は東北各地を訪ね歩く民俗研究家。各地の地域起こしに関わる。副題「小さな村の希望を旅する」。2000〜2006年にPR誌連載などを増補して新版になった。四部構成、38の東北六県だけの事例報告。初出が震災前だから、その後のことはページ下段注記で触れる。平成の大合併後、町村名変更が多く、なにやら奇妙な合併が多いのに驚く。
事例の一つ、宮城県宮崎町は私の古里の隣。1999年に始まった「食の文化祭」(03年合併で加美町)である。1500世帯、6500人の町。町民の手づくり家庭料理一千品を展示する。「どれもふだんの食卓にあるものばかり」。1999年に町と商工会で始まって、今や全国各地に広がる。「B級グルメ」とも違う。高らかな普段着宣言。写真が圧倒的だ。
本書は、どの事例も統計データが皆無である。その分、読みやすく、地域に生きる一人一人が活写されている。写真が臨場感を添える。全て地域に生きて、無名の人たちである。データなら、これらに人は全て消えているだろう。
更に言えば、村の絶望より、敢えて「小さな村」の希望に力点を置く。東北の村は決して、住みよいわけではない。だからこそ、そこで生きる希望とはなにか、各事例から学べる。
日夜、復旧・復興が語られ、しかも決定打は無い。そういう時期に入ろうとしている。だからこそ、大震災・津波・放射能に苦闘する海岸線側ではない山地側の地域で、実践すべき協同とはなにか。それに迫る本でもある。