自著を語る
幅広い理解を得る政策研究へ
この本は、農林中央金庫が2009年度から一橋大学で開設している寄附講義「自然資源経済論」の講義を編集したものであり、昨年に続くシリーズ2冊目の発刊である。
「自然資源経済」とは、プロジェクト代表の寺西俊一教授(環境経済学)による造語である。それは、農林水産業などの「各種の自然資源を基礎とし、その上に成り立つ経済」という意味である。自然資源の豊さを保全し、それとの間で持続可能な関係が結ばれなければ、農林水産業や地域社会の発展はありえない。
しかし今日、市場経済のグローバル化の下で、農林水産業や地域社会の衰退化が生じている。このプロジェクトは、農林水産業と地域社会の理論的な位置づけを改めて行ない、持続可能な発展のための政策研究を行なうもので、各界専門家による講義や大学院生を中心とする研究会・現地調査により、教育・研究両面での成果を追求している。
シリーズ第1巻では農林水産業の現状を知ることに重点が置かれたが、第2巻では理論や政策にも踏み込み、学界を代表する重鎮から気鋭の研究者まで12名の講師による熱のこもった講義が収録された。内外の農林業政策、独自性の強い水産資源管理、資源管理の新たな理論と手法など、幅広い分野を網羅するものになった。さらに、講義終了後に発生した東日本大震災と福島第1原発事故を受け、「東日本大震災と農林水産業の復興・再生」と題する序章を書き下ろして加えた。
「震災復興のためにもTPP」という主張に見られるように、TPPと震災復興は今後の農林水産業と地域社会の将来像に関わる。
もちろん、TPP問題の本質は農業対輸出産業の対立軸以外のところにあるが、農業のあるべき将来像についていまだに国民の間に共通認識がないのは憂慮すべき事態である。これを打開するには、農林水産業と地域社会の経済学における位置づけを固めなおし、国民誰もが納得できる農林水産業像と政策体系を提起する必要がある。
このプロジェクトに関わって感じることは、そのためには環境経済学の成果に学ぶべきことが非常に多いことである。プロジェクトは来年度以降も継続されるが、高い目標に対して道のりはまだ長い。プロジェクトへのご意見とご支援をいただければ幸いである。