「失われた10年」は日本にも
ああ、そうだったのか! 最近もやもやしていた「違和感」の一つ一つが点から線になり、一つの絵になってゆく。わずか新書判200ページ余なのに盛り沢山なこと、展開の早いこと、一見別のことを語っているようでいつの間にか一つの帰結へと結びついて行く。そういう本だ。特に印象に残った部分を紹介する。
「原子力村」の構成員を知るには「その人物の背景」を見よ。東大工学系研究科の大橋弘忠教授は「格納容器破損は1億年に一度起きるかどうか」「プルトニウムは飲んでも大丈夫」と言う人物。彼の前歴は東京電力勤務、彼の研究科へは東電から10年間に5億円が流れていた。「村」の専門家の前歴を知ることの大切さと「御用学者の作り方」とを学んだ。
2011年9月に始まったウォール街占拠。その運営委員会の20名は記号で呼ばれ素性も年齢も不詳。無料で供給された食べ物の提供者は大物投資家のジョージ・ソロス氏と判明したそうな。「アラブの春」の背後には各国内での民主化を掲げたNGOの動き、それを瞬時に国際規模に拡散させるメディアの存在があったと。私はかねて友人が長く滞在したので様子を聞き知っていたリビア政府の転覆に合点がゆかなかったが、本書によってその疑問が解消したように思う。
東京都のがれき処理の仕組みにはあきれた。民間処理業者応募条件に合致する企業は都内に1社。そこに3年間で280億円が支払われる。それは95.5%を東京電力が出資する子会社だそうな。
失われた10年、やりたい放題の多国籍企業や政財界の有様をコーポラティズムと呼ぶそうだが、我々のコーポラティブなる語感とは随分違っている。がとにかく面白い。一読をお勧めするが、読後はどなたかに回されることもお勧めする。読み終わって本棚に、ではもったいない。