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国内農業と学校給食

2学期からも「国産給食」が楽しみ!
生鮮から加工まで食材のオール国産化に挑戦

 楽しかった夏休みも終わり、子どもたちはちょっとがっかり、と思いきや、なかには夏休み明けの学校給食を楽しみにしていた子どもたちもいる。
 東京・杉並の区立三谷小学校ではこの4月から加工食品も含めて「給食食材のオール国産化」に挑戦、月の半分を「国産給食」の日にした。中国産冷凍餃子事件をきっかけに高まった食の安全性に対する不安に応えようと、保護者や子どもたちの声も聞きながら取り組みをはじめたもの。
 だが、いざ挑戦してみると立ちはだかったのが「輸入品の壁」だった。「え!イチゴジャムのイチゴは中国産?」、「かまぼこの主原料は米国産!?じゃあオール国産のおでんは無理なの......」などなど食の現実を子どもたちも知るようになった。それでも「国産がなくなってしまうのは困ると思う」「食材集めが難しいのに国産給食を取り入れてくれてありがとう」などと感想を記すようになっている。
 自国での食料生産の重要性が認識され「国産への追い風」は確かに吹いているが、生産者、JAグループにとってはそれをどう背中に受けるかが課題だろう。「給食の中身を変えて、子どもたちが身近に農業をイメージできるようにしたかった。国産食材をもっと作ってもらえれば確実に利用したい」と関係者は話している。

国内農業への追い風をどう受け止める?
―学校給食の現場が問いかけるもの―

◆「基本的に国産、ってどういうこと?」

江口敏幸 栄養教諭
江口敏幸
栄養教諭

 杉並区立三谷小学校で国産給食への挑戦が始まったのは今年2月。
 中国製冷凍餃子事件では、問題となった食品企業製造の冷凍食品が600校近くの学校給食で使用されていたことも明らかになったが、その後、区内の学校給食では中国製マッシュルームで異臭が発生するという問題が起きたこともきっかけになった。この件では学校長が安全性に問題はないことを各家庭に手紙で説明したが、保護者にはいっそう身近な問題として不安が高まった。
 そこで、むしろこれを機会に学校給食について子ども・保護者も含めみんなで考える協議の場を持つことにしたのである。
 「考えてみれば学校給食のあり方は行政と学校関係者だけで決めてきた。そこに親や子どもたちの声を入れるべきでは、ということでした」と江口敏幸栄養教諭は話す。
 話し合いでは安全性への関心の高まりから、国産食材を使った給食ができないか、ということが真っ先に問題になったが、実は「学校給食は基本的には国産の食材を使用している」というのが実態。これに対して校長先生から「基本的に、とはどういうことなのか?」という疑問が出された。その答えは「加工済み食品にはなかなか国産がない」という現状だった。
 こうした議論のうえ、同校では加工品を含め、「できるかぎり国産の食材を使って給食を作ろう」という目標を立てたのが大きな特徴だ。
 具体的には3月の献立をすべて国産給食にすることにチャレンジ。現行の給食費の範囲内にすることや、栄養素の確保は従来どおり、さらに食の安全性と食料自給率について親も子どもも考える機会とすることにした。また、その日の献立を、産地、金額、写真付きで毎日同校のホームページ上に公開することも決めた。

◆国産給食への壁

 江口教諭によると、同校では米や野菜、肉、乳製品は国産だが、パン、麺、魚、豆腐などの大豆加工品、調味料、スパイスは外国産頼りが実態で、いかに国産に切り替えていくかが課題となった。
 しかし、それは容易なことではないことに気づいた。たとえば、豆腐を国産大豆使用のものに変えようと区内の業者に掛け合ったが、豆腐は国産にできても、油揚げも、という要望は断られるなど、結局、探し回ったあげく埼玉県の業者に依頼したという。
 調味料となると、もっと大変だった。調べてみるとトマトケチャップやトマトピューレでは、トマトは長野県産だが、タマネギは米国産、コンスターチも米国産。酢は国産だったものの、塩の原産地は外国だった。
 塩については単品として使っているものでも、調べてみると岩塩を輸入したものだった。それを純国産に切り替えるとキロ1000円とこれまでの3倍にも跳ね上がった。砂糖も同様に北海道産テンサイを原料にしたものにしたが、価格アップは避けられないことが分かった。
 もっとも象徴的だったのは、子どもたちが大好きなイチゴジャムだ。
 業者から取り寄せた原材料証明書を見ると重量ではいちばん多い水飴こそ国産となっていたが、主原料であるイチゴが、なんと中国産だった(図参照)
 さらにさつま揚げもかまぼこも、揚げボールもすべて原材料は米国と中国産。今の日本で、おでんの種を国産で、というなら「練り物抜き」という看板を掲げたおでん屋さんにならざるを得ない状況にあることも分かった。
  もちろん海産物も国産で調達できないわけではないが、たとえばアサリは中国産キロ980円が、近海ものだと4000円になってしまうことや、価格が安い海産物加工品を調べてみると、原産地は日本でも、中国に持っていって加工しているから価格が抑えられているという例もあった。
  「結局、現状ではすべての材料を国産食材でというのは不可能に近く、しかも、加工品の場合は何をもって国産とするのかという問題にもぶつかったわけです」。

原料配合表

◆食材の工夫を重ねて実現

 そこで同校では、加工品については主原料が国産であれば「国産食材」とするとしたが、それでも今年3月の国産給食では、水産練り製品のほか、油がほとんど輸入品のマヨネーズ類、国産小麦使用に切り替えると価格が3倍以上になってしまうスパゲティーなどを使用することはできなかった。ごまも日本で生産されてはいるが自給率はわずか0.05%で非常に高価、また、ゼラチンは日本で生産されていないことから使用できなかった。
 その結果、国産給食はどんな献立になったのだろうか。
 天ぷらうどんは麺を国産小麦使用にしたが、「竹輪」の天ぷらはなくなり替わりにゆで卵をそえた。国産野菜の天ぷらを揚げるのには“米油”を使用、「わかめ」サラダには宮城産わかめを使用した。ホワイトシチューでは、バター、小麦は国産にできたが、グリーンピースに代えてインゲンを使用。そのほか白身魚の照り焼きは、これまでニュージーランド産の魚だったが、国産とするために近海物のワラサ(ブリの子ども)を使って価格を抑えた、などだ。
 江口教諭によるといちばん苦労したのが国産のパン粉の調達。神奈川県内の1業者をようやく探し当て、なんとか国産ロールトンカツを献立に加えることができたという。
 春休みに入る直前の3月に取り組んだ国産給食は14日間。数量は限定されたが保護者への試食も行った。国産小麦を使ったラーメンには区内の業者が同校の挑戦に賛同し、製麺にチャレンジ、3回もの試作を経て献立にのせることができたという。
 子どもたちや保護者へのアンケート結果では、国産給食について「安全だからいい」、「家族全員が喜んでいる」などの声があがったほか、国産小麦ラーメンも評判が上々だった。

原料配合表

◆和食なら国産給食が可能

 一方、給食費は現行範囲内にとどめるという目標はどうだったのか。
 結局、1食あたり平均して6.37円上昇、なかでも国産大豆使用の豆腐でマーボー豆腐をメニューにするなどした「中華」では14.67円も上がった。しかし、「洋食」では4.94円、「和食」では3.84円の上昇とメニューによって差があることが分かった。
 こうした結果をもとに4月からの学校給食をどうするか保護者、教職員と、子どもたちへのアンケートなどをもとにもう一度話し合った。国産給食の取り組みのよいところは、安全であり、自給率の向上や食文化の伝承、環境にもいい影響があるのではないかという声が多かったが他方、問題点としては、食材調達が簡単ではなく給食費も上昇してしまうことが挙げられた。
 ただし、給食費の問題は、メニューを和食にすればそれほど負担にはならないということも分かったことから、出した結論は、4月以降は「国産給食の日を月に半分以上とし、献立は和食を基本とする」である。洋食と中華の場合は外国産食材も使用し、また、国産給食であってもみりん、ソース、スパイス、ごま油等の一部調味料では国産品を使えないことを前提にした。その一方、和食を基本とした国産給食の取り組みによって、その大事さが分かった米飯の回数を週3回から4回に増やし、自給率向上への貢献と給食費の値上げを少しでも抑えることにし、その結果、1食あたり2.58円の値上げにとどめた。同校のこうした取り組みがきっかけとなって杉並区全体でも国産給食の取り組みが始まり、米飯給食実施回数も区全体で週4回に引き上げられている。

◆学校現場からの期待

 国産給食の実施とともに、同校では国産大豆を使った豆腐をつくってくれている製造業者にも参加してもらい自給率を課題にした授業も行っている。授業では国産大豆の生産の現状を伝えようと担当の先生が九州の産地に今年の作付け状況を電話で聞き児童に伝えたという。
 また、ケチャップがなかなか純国産のものが手に入らないのであればと、学校農園でつくったトマトを使ったケチャップづくりも授業に取り入れた。
 このような取り組みを通じて子どもたちからは「高いけれども輸入に頼り国産がなくなってしまうのは心配」、「食材を集めるのが難しいのにありがとうございます」などの声が出されている。その一方で「日本のものだけが安全というのはおかしいと思います」という冷静な見方も生まれてきている。
 「輸入食材がなければ成り立っていかないという現実もあるが、一方では生産者の方には元気を出してほしいという思いが出てきたのではないでしょうか。私としては子どもたちにうまいものを食べさせたいという気持ち。それを国産給食でめざそうとしたら、やはり和食が基本だということがこの取り組みで分かってきたわけです」と江口教諭は話す。
 各地のJAでも加工品に力を入れているところは多く、今回のレポートとは違い、自分たちは純国産、地場産と自信を持って言えるジャムやソースなども作っているのではないか。ただし、それが都会の学校給食の現場にはなかなか伝わっていないということではないか。
 「学校給食は国産を求めている。たとえば豆腐だけでも国産にという運動を広げられないか。われわれは単なる大口需要者ではない。学校給食は教育であるということを改めて考えたい」と江口教諭は話している。
                      3月に実施した国産給食のメニュー
                      (同校のホームページより)

ガーリックトースト、コーンシチュー、果物、牛乳


今までの食材だと  197.9円
国産食材だと 204.6円
差額      6.7円
みそラーメン、ジャコサラダ、青のりポテト、牛乳


今までの食材だと 240.4円
国産食材だと 252.9円
差額      12.6円

わかめご飯、三色揚げ、ぐるに、小松菜ともやしのおかか和え、くだもの、牛乳

今までの食材だと 290.4円

国産食材だと 297.4円
差額      7.0円

野沢菜ごはん、鮭のチャンチャ焼き、いそ煮、ほうれん草の磯和え、牛乳

今までの食材だと 242.2円
国産食材だと 243.4円
差額      1.2円


麦ごはん、ぶりの照り焼き、肉じゃが、しめじの煮浸、牛乳


今までの食材だと 214.2円

国産食材だと 214.3円
差額      0.1円
天ぷらうどん、わかめサラダ、くだもの、牛乳


今までの食材だと 206.7円

国産食材だと 210.8円
差額      4.1円
マーボーライス、たまごスープ、くだもの、牛乳


今までの食材だと 257.3円

国産食材だと 276.6円
差額      22.4円
ジャムサンド、イカのチリソース、チャオファーサイサウピカンサラダ、牛乳

今までの食材だと 218.2円
国産食材だと 222.5円
差額      4.3円
 
キムチチャーハン、ニラ玉スープ、りんごのヨーグルトケーキ、牛乳


今までの食材だと 192.6円

国産食材だと 201.6円
差額      9.0円
カレーライス、油揚げのカリカリサラダ、伊予柑、牛乳


今までの食材だと 211.4円

国産食材だと 214.9円
差額       3.5円
わかめうどん、肉まん、野菜のナムル、牛乳


今までの食材だと 221.7円

国産食材だと 227.8円
差額      6.1円
 

 

(2008.09.02)