◆7870億ドルの財政刺激法案を核に経済対策を次々と
1月20日にオバマ政権が発足して2か月が経過した。大恐慌の時に誕生したルーズベルト大統領は就任後100日の間に相次いで不況脱出のために大胆な政策を打ち出した。同大統領の一連の政策は“ニューディール政策”と呼ばれ、アメリカ社会を大きく変える原動力になった。そのルーズベルト大統領の例にならい、オバマ大統領にも深刻な不況脱出のための“新ニューディール政策”を期待する声が強かった。
オバマ大統領も経済対策を最優先事項にすると表明し、大胆な財政刺激策を講じた。米議会は2月中旬に総額7870億ドルという史上最大規模の財政刺激法案(正式名称は「米国復興再投資法」)を可決し、オバマ大統領も同法案に署名し、本格的な景気回復策が発動されることとなった。その内容は約3割が減税で、7割が公共事業や代替エネルギー関連の研究開発投資に向けられることになっている。
さらに今回の経済危機の原因となった住宅市場へのテコ入れのために、住宅ローンの条件緩和や低利への借り換えを促進するために総額2750億ドルの救済資金を提供するプログラムも発表している。また経済回復の足を引っ張っている金融逼迫を解消するためにブッシュ前政権から引き継いだ総額7000億ドル金融救済プログラムの未使用分の3500億ドルをベースに新たな金融救済策を発表するなど、相次いで政策を発表している。
◆350万人の雇用を創出してもまだ199万人が失業
問題は、そうした積極的な政策がどの程度効果を発揮するかである。今年に入ってアメリカ経済状況の悪化は急激に進んでおり、オバマ政権の景気政策の前提は楽観的過ぎるのではないかとの批判も聞かれる。特に労働市場の悪化には目を覆うものがある。2月の失業率は1983年来最高の8.1%にまで上昇。12月から2月までの3か月間の雇用喪失は実に199万人に達している。今回の不況が始まった2007年12月から合計すると440万人の失業者が出ている。今後、自動車会社のGMなどビッグ3の雇用調整も予想され、さらに失業者が増える可能性が強い。オバマ政権の財政刺激策では2年間に350万人の雇用を創出する効果が期待できるとされているが、その目標が達成されても、今回の不況で増えた失業者の数にははるかに及ばない。
さらに刺激策に盛り込まれている減税の効果も大きくは期待できない。1年前にブッシュ前政権は1000億ドルの個人減税を実施したが、消費に使われた額は20%程度に過ぎず、残りは借入返済と貯蓄に回っている。今回の個人減税は中産階級以下の労働者を対象にしたものであるが、その消費刺激効果は大きくないと予想される。
では公共事業はどうか。公共事業の内容を詳細に検討してみると、市町村レベルの小規模な事業が多いのが特徴である。大プロジェクトは存在しない。そした小プロジェクトは工期が短期で、需要を盛り上げていくには自ずと限度があるようにみえる。グリーン・ジョブという環境関連投資に期待が集まっているが、雇用効果という面では大きな期待はできないだろう。
◆各国に財政出動を要請 消極的な欧州各国
さらにいかに国内需要を拡大しても、輸入が増えれば、需要効果は相殺されてしまう。今回の刺激法案の中に公共事業でアメリカ製品を使うことを求める「バイ・アメリカン条項」(表下)が盛り込まれたのも、せっかくの需要が輸入品に食われてしまうことを懸念したからであろう。オバマ政権の景気刺激策が効果を発揮するためには、諸外国も同時に景気刺激策を講じる必要がある。3月14日にロンドン郊外で開催されたG20(主要20か国財務相・中央総裁会議)でガイトナー財務次官は各国に財政出動を要請したのも、そうした背景があるからだ。ただ欧州各国はアメリカ政府の要請に対して消極的な立場を取っている。4月2日にロンドンで開催されるG20の首脳会談に向けて、各国間でさらに調整が行われることになるだろう。
オバマ大統領は財政刺激策に関連して、公共事業を執行する地方政府に対して資金分配を急ぐように指示している。4〜5月から公共工事も始まるだろうが、先に指摘したように、これによってアメリカ経済が沸き上がるという状況にはならないだろう。2009年の経済成長見通しも厳しいものになっている。アメリカの大手証券会社のモルガン・スタンレー証券は、今年の成長率はマイナス3.3%になると予想している。2008年の1.1%に比べると大幅な落ち込みになる。民主党のナンシー・ペロシ下院議長は追加的な財政刺激策が必要になると語っている(ただ後で批判され発言を修正している)ように、予想を上回る経済の悪化に対して追加的な措置が必要となってくる局面は十分予想される。ただ積極的な財政運用の結果、今年の財政赤字は約1兆7000億ドル(前年は約4450億ドルの赤字)が予想されるだけに簡単には追加措置を講じるのは難しいだろう。
◆高まる日本への期待 今後は日米中を軸に展開か
そうしたアメリカ経済の状況の中で日本に対する期待は必然的に高くならざるをえない。
先のG20の会合で与謝野財務相は3兆円規模の追加的な財政刺激策を講じると約束したが、これはアメリカ政府の要請に応えるものであった。今後の展開では国内経済情勢の悪化もあり、日本政府はさらなる追加措置を求められることもありえる。EUは追加的な財政出動に対して消極的だが、中国政府は積極的な財政刺激策を講じており、今後は日米中が軸になった経済対策が展開されるだろう。
●日米の農業・貿易関係への影響は
(米国議会の勢力、JA全中「国際農業・食料レター2月号」より)
景気悪化で貿易政策の優先度低い 米国新議会 JA全中発行の「国際農業・食料レター2月号」は「景気の行方に左右される米国の貿易政策」をテーマに新議会の動向を分析している。 |