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日本経団連の農業提言

健全な国内農業に一般財源で支援を
株式会社の農地所有、当面求めず

 日本経団連(御手洗富士夫会長)は農商工連携の強化や多様な担い手による農地の有効利用促進などによってわが国の自給力を強化することが必要だとする農業政策に関する提言を3月11日に公表した。提言では構造改革による競争力強化を求めながらも、海外との条件に「埋めがたい格差が存在する品目」があるとして、国益の観点から「米をはじめとする守るべきものに関するコンセンサス形成」をしWTO交渉などに臨むことを求めている。また、交渉の進展によって、国内農業への影響がある場合には、農業予算の組み替えだけでなく「一般財源の確保」も必要だとしている。提言について産業第一本部の川口晶副本部長に聞いた。

◆農業界との連携打ち出す

 日本経団連は昨年7月にまとめた「アピール2008・グローバル化の中での日本企業の針路」のなかで、国際的な食料高騰を受けて、「内外価格差が縮小している今が農業改革を推進する絶好の機会」、「米の良さを再認識し消費拡大に努めることが自給率向上にもつながる」と表明。これをきっかけに農政問題委員会が提言をまとめた。経団連としての農業政策提言は11年ぶり。
 前回は農業基本法見直しに向けたもので、今回は来年3月に策定される新基本計画をにらんだ。
 提言では自給力強化のため「食料生産基盤の強化」と「国民・市場ニーズへの対応」を柱とした。
 生産基盤の強化では農地制度改革に重点を置き、農地貸借について原則自由化し、転用規制を強化するなどの農地法改正案を概ね評価、多様な担い手による農地の有効利用が必要だとしている。
 注目されるのは、一般株式会社の農地所有について「農地を所有し農業へ参入しようとする株式会社等の大きな実需は認めがたい」、「地域において共に農業に携わる農業関係者等の意識に問題もある」と指摘、今回の提言では農地所有は求めないという姿勢を示していることだ。
 川口副本部長は「農地を農地として利用することを徹底すれば企業であっても参入規制をすべきではないとの考えだが、農業は地域、集落のなかでなければ経営できない。将来とも所有が経営の選択肢にないということではないが、関係者の懸念も十分理解している」と話す。
 一方、農地リースの許可要件は、地域農業との調和を尊重するにしても、審査基準を設定するなど、公正性、透明性のあるかたちで運用すべきとの提言も盛り込んでいる。
 
◆得意分野を互いに持ち寄る

 ただ、今回の提言は「全体として農業界が取り組んでいる改革努力を後押ししていくというスタンス」、パートナーとしての連携方策に重点があるという。
 たとえば、改正農地法案では生産法人に1/2未満まで出資できる企業を認めているが、それは農業経営の改善にとくに資すると者として「政令で定める」とされている。
 これについて提言では大企業も含め多くの企業を農業サイドの連携先とすべきとの考えから、こうした出資要件の緩和対象を幅広く認めるべきだとしている。
 「企業は10%程度の出資ではおつき合いでしかなく、パートナーとはいえないと考えている。全国ネットの販売網を持つ企業や、輸出の販路開拓に強い企業など、農業にとっても魅力ある相手であれば企業規模の大小は関係ないのでは。提言は大企業と連携した農業経営も農商工連携施策のなかでバックアップすべきというもの」だだという。
 生産は農業者に任せ、販路、資金調達など経済界が強い部分は企業と連携、「お互いに得意な分野を持ち寄ってやっていかないと食料自給力の強化にはならない。農業は大企業であれ地域にずかずかと入っていってやれるような世界ではないことは理解している」。

◆国際交渉には毅然と対応を

 一方、総合的な食料供給力を強化するには海外からの安定的な輸入も必要だとしている。 そのためには国際交渉に積極的に関わっていくべきとの立場だが、構造改革を通じた農業の国際競争力強化を求める一方、「健全な国内農業との両立」も必要だとしている。
 提言では、構造改革の進展によっても「なお埋めがたい条件格差が存在する品目」があると明記。とくに主食を毎年連続して生産することが可能な水田農業など「守るべきもの」について国民的なコンセンサスを形成してWTO交渉に臨むべきとしたほか、EPAもWTO交渉と整合性を持つことを求めている。
 そのうえで、かりに国境措置などの縮小によって国内農業に影響がある場合は、「国民合意を得たうえで既存の農業予算の組み替えによるほか、一般財源を確保することによって健全な国内農業の両立を図るべきだ」と踏み込んだ提言をした。
 「たとえば、関税を財源にしている品目であれば、国境措置が低くなれば財源が不足する場合がある。そこに対する措置は必要。構造改革をしても追いつけないような自由化まで望んでいるわけではない。譲るべきものは譲りつつも、守るべきものは守るしっかりとした交渉をするべきだという考え。農業に対する経済界の意識は変わってきていると思う」と川口副本部長は話している。

(2009.04.09)