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農地法の一部を改正する法律案の内容と問題点・課題

利用権にとどまらず所有権の自由化が顕在化へ
(社)JA総合研究所 櫻井勇

 農地法の改正法案が21年2月22日に閣議決定され、2月24日に国会に付託され、4月7日から審議が開始されているところである。
 ここでは、農地法の改正法案から主なポイントをみるとともに、JAにとって意味するもの及び課題を考えてみる。

農地法改正法案の主なポイント

農地法改正関係

◆法律の目的の大きな変更

 「農地を効率的に利用する者による農地についての権利の取得を促進」および「農地について所有権又は賃借権その他の使用及び収益を目的とする権利を有する者は、当該農地の農業上の適正かつ効率的な利用を確保するようにしなければならない」として、以下の現在の農地法第1条の目的と比較すると、効率的利用と適正利用が強調されていることである。しかし、効率的とは何か、適正とは何かは示されていない。
 言外には、大規模経営(できれば国際競争力のある農業経営)を意味しているものと思われる。つまりあとでも出てくるが賃貸借であれば誰でも農業経営ができるということを前提とし、耕作者自らが所有することが最も適当としていない、つまり、現状の農家による農業経営を期待していないものといえよう。
 なお、現行の農地法の目的は、以下のとおりである。
 「この法律は、農地はその耕作者みずからが所有することを最も適当であると認めて、耕作者の農地の取得を促進し、及びその権利を保護し、並びに土地の農業上の効率的な利用を図るためその利用関係を調整し、もつて耕作者の地位の安定と農業生産力の増進とを図ることを目的とする。」
 いかに法目的が大きく変わるか、明白である。

◆農地の権利移動の制限の見直し

(1)原則として権利移動の制限を自由化
 農地などについて効率的に利用して耕作する場合や農地の集団化、農作業の効率化など、農業上の効率的かつ総合的な利用の確保に支障を生ずる恐れがある場合を除いて許可するというものである。つまりは、原則として許可すると読むことができよう。

(2)農業生産法人要件の見直し
 法人の構成員要件を見直し、事実上、株式会社の農業経営ができるように要件緩和を行っていることである。

(3)農地の権利取得に当たっての下限面積の要件の面積の設定主体を従来の都道府県知事から農業委員会(市町村)に変更
 従来は、都道府県知事が県ごとに4反あるいは5反以上農地を所有していないと、農地の取得が出来なかったものが、すでに特区申請をして認められたところ、例えば、愛知県豊田市では、10アールとしている。
 これらの判断を市町村長が事実上行うことになるとみられることから、首長の判断で下限面積が都市周辺部などでは下がる可能性が高いとみられる(不動産業者が将来を見越して市街化区域周辺部の市街化調整区域農地を家庭菜園分譲用地として仕込む可能性は確実とみられる)。

(4)誰でも農業従事を可能へ
 農地などを使用貸借で権利または賃借権を取得しようとする者が、取得後に適正に利用していないと認められる場合に、使用貸借又は賃貸借の解除を行える旨の条件が契約に付されていれば、農業生産法人及び農作業従事の要件にかかわらず、許可できるとしている。つまり誰でも事実上、農業従事が可能になる。しかも適正な使用の定義自体が明確でなければ、耕作放棄地状態になることも十分に想定されよう。本来、農業経営自体は、一定の技術を要するものであり、誰でも可能というようなことは大いに問題が生ずる恐れがあるといえよう。

【対 策】
 「許可できる」とあるので、農業委員会で独自の基準(農作業経験、農業機械の所有状況)などを設けて、効率的経営及び適正な利用の問題があるとして許可しない方策を検討できないか。

(5)賃貸借の存続期間を20年以内から50年以内に延長へ
 現在は、民法の規定で賃貸借期間を20年以内としているが、これを一般定期借地権なみに50年以内とするものである。
 農地で50年の権利設定を行えば、事実上、売却とほぼ同じことになる可能性が高いとみられる。そもそも50年というような長期間の設定は必要ないのではないかとみられる。

(6)小作地の所有制限の規定の廃止
 農地法は、戦後の農地改革で農村の民主化(地主による借地農の支配の打破)という点で大きな役割を発揮しているが、廃止は新たな地主制あるいは大農場制を意図するものといえよう。それは究極的には、株式会社による農業支配の可能性に道を開く可能性が出てくるとみられる。

農業経営基盤強化促進法の一部改正

◆重要な農地利用 集積円滑化事業へのJAの対応

 農地法の一部改正に関連して、農業経営基盤強化促進法の一部改正が予定されている、その大きな論点は、「農地利用集積円滑化事業の創設」である。
 「農地利用集積円滑化事業」とは、効率的かつ安定的な農業経営を営む者に農用地の利用集積の円滑化をはかるため、2つのタイプのものを想定している。
 第1のタイプは、市町村または農業協同組合または一般社団若しくは一般財団法人で農林水産省令で定める要件に該当するものとしている。
 行う事業は、3つを想定している。
 1つは、「農地所有者代理事業」で、具体的には、農用地などの所有者に委任を受けて、その者を代理して農用地等について売り渡し、貸付または農業の経営若しくは農作業の委託を行う(当該委任に係る農用地等の保全のための管理を行う事業を含む)
 2つは、農用地等を買い入れ、又は借り受けて、当該農用地等を売り渡し、交換し、または貸し付ける事業、
 3つは、前者で買い入は借り受けた農用地等を利用して行う、新たに農業経営を営もうとする者が農業の技術または経営方法を実地に習得するための研修その他の事業である。
 第2のタイプは、第1のタイプ以外の営利を目的としない法人(営利を目的としない法人格を有しない団体で、代表者の定めがあり、かつその直接または間接の構成員からの委任のみに基づく農地所有者代理事業を行うことを目的とするものを含む。)で、農林水産省令で定める要件に該当するものとしている。

【 問題点・課題】
(1)JAは農地利用集積円滑化団体になれるか?
 ここでは、JAが農地利用集積円滑化団体になるかどうかが、大きな別れ目になるとみられる。JAでは、都市部のJAでは農地保有合理化法人の資格をもっておらず、農地の斡旋の実績も皆無とみられることから、農地利用集積円滑化団体に指定されることは、困難とみられる。
 他方、農村部のJAにおいて農地保有合理化法人の資格を持っていても、斡旋の実績が全く無い事例が多く、こうしたJAでも農地利用集積円滑化団体に指定されない可能性がある。これは、農林水産省令の内容に関わるものである。
 ある種の情報では、第2のタイプに関連して、利用集積円滑化団体を市町村の一定区域ごとに1つだけ指定するとの情報もある。この場合、効率的経営、つまり大規模経営へ誘導する法人(集落営農法人)や農地集積をはかっているところなどを指定することもありえるとみられる。
 そうなった場合、すでに水田地帯で集落営農で法人化しているところでは、(社)JA総合研究所の調査によると、ほぼ例外になしにJAの事業利用関係は無くなっており、JAの存在意義がそうした法人にない状況が広範にみられる。
 JAが農地の問題に対応できないとなると、今後、よりいっそう進行するであろう正組合員の急速な減少のもとで農業協同組合として存立意義を失う可能性もあろう。その意味では、農用地利用集積円滑化団体になることがきわめて重要になると思われるが、JAの中での土地問題の位置づけがまさに問題になるとみられる。

(2)市町村基本構想の規定事項の拡充等の取扱い
 経営基盤強化促進法では、従来の基本構想に加えて、効率的かつ安定的な農業経営を営む者に対する農用地の利用の集積に関する目標、その他を定めることとなっている。この基本構想について市町村は定めるときに関係者の意見を反映させるとしているが、JAなどとしてどのように対応するかが問われることになろう。特に効率的経営をどうみるのか、規模か、所得かなどがあげられよう。

(3) 特定農業法人の範囲の拡大〜株式会社(上場会社を含む)まで拡大
 農業特区との関連で定められていた特定農業法人の範囲を拡大するとし、農業経営を営む法人、すなわち、株式会社まで拡大するとしており、事実上、特定農業法人は、廃止されたと同じことになっているといえる。
 農地法の大家である原田純孝中央大学教授(元東京大学社会科学研究所教授)の指摘によれば、農水省の「農地政策に関する有識者会議」(2007年1月設置、原田教授自身がこのメンバーであった。)の論議のなかで、突然、昨年8月下旬に農水省から「機械・労働力等からみて農地を適切に利用する見込み」さえあれば、個人・法人を問わず、「誰でも何処でも相対で自由に農地を借りて農業をやれるようにする」という考えが示されたとしている。

(注1)
 〈「渡辺洋三先生追悼論集」として2009年3月に出版された「日本社会と法律学」に原田教授が執筆されている「農地所有権論の現在と農地制度のゆくえ」による。〉

  その背景として、原田教授は、経済財政諮問会議の「グローバル化改革専門委員会」の2007年5月8日の「第1次報告」のインパクトを挙げている。この報告は、日本がEPA(経済連携協定)交渉を進めるには、農業の構造改革が必要で、そのためには農地の政策の改革が不可欠として、そのなかで「農地の所有と利用を分離し、(1)利用についての経営形態は原則自由、(2)利用を妨げない限り、所有権の移動は自由とするというものである。
 これらをふまえて、農水省は、農地改革案のなかで「貸借に限っての規制緩和案」を出してきたものとみられるとしている。
 しかし、原田教授は、「所有権と利用権(広義)で異なる規制(権利の取得の要件・基準)を適用するには、そのための制度的論拠が必要であるが、権利取得者による農地の農業的利用という観点から見る限り、両者で規制内容を別にすべき理由は見出しがたい。利用権ならよいが、所有権の取得は許されない借地農業経営者を一般的な形で位置づけるのは、もともと無理な話なのである。規制を別扱いにする論拠が薄弱な以上、所有権も同じ規制にするべきだという議論がほどなく登場してくるであろう。」(注1と同じところからの引用)

農業協同組合または連合会の農業経営の問題点

◆株式会社とJAの農業経営の本質的な違い

 農地法の一部改正に伴う農業協同組合法の改正で、「地区内における農地などのうち、当該農地などの保有及び利用の現況及び将来の見通しからみて、当該相当農地の農業上の利用の増進を図るためには、自ら農業経営を行うことが相当と認められるものについて農業の経営を行うことができる」とされている。
 これについては、株式会社の農業参入を認めるのと引き換えにJAにも認めるという筋立てであるが、問題は、株式会社とJAの決定的な違いが認識されていない。株式会社は、当然のことながら利益を上げることが基本であり、JAは組合員の福利の向上のために事業活動を行うことが基本である。したがって、当然だが、組合員に農地の利用集積をはかり、生活できる支援を行うことが基本であり、JAが組合員を無視して、条件のよい農地を借地、取得して農業経営を行うことは本旨にもとるものである。
 その点でいえば、JAが農業経営できることの意味は、条件の悪い、誰も経営しないような農地をお世話する、つまり事業化が望めないところで取り組むことを迫られることが推測される。JAも農業経営できるようにするので、株式会社と同一条件だというのは、全く違うといわざるをえない。
 しかもJAは地域社会との関連を当然ふまえて、取り組むことが前提であるが、株式会社にとっては、利益が目的であり、地域社会のありようは、どうでもよいことである。おまけに、WTOで巷間言われている保護品目の上限が6%ということになれば、日本農業は壊滅的な状況になることは明白である。その際に、原田教授が指摘するように、利用権と所有権を別の取扱いができない事態は、目の前に広がっており、最終的に農地転用で利益を上げるということが明々白々といえよう。
 さらに都市計画法の改正の論議も現在、行われているが、平成22年度は地方分権を先行するとの議論があり、その際に、線引きの廃止権限なども現在の都道府県知事から市町村長に下ろされるとしたら、農用地区域以外の市街化調整区域や白地地域の開発・転用(菜園分譲を含む)が顕在化することにもなろう。
 そうした幅広い視点から、JAとして今回の農地法の改正を正確に見極め、組合員とともに、市町村を含む行政を動かす取り組みができなければ、将来的に農業協同組合としての存立は危ういことを肝に銘記すべきだろう。
                          ◇ ◇ ◇
 ところで、筆者が各地域のJAに問い合わせしたところ、すでに上場会社が県庁や市などに農業経営をしたいとの働きかけが急速に進行している。
 一例を上げると、九州のある県に上場会社(精密機械関係企業)が20ヘクタール農地を借りたいとか、信越地方のある県では名古屋の食品企業による農業参入の申し出、神奈川県では上場している外食企業が野菜生産の農地の借り入れ希望を、また、隣の市には米生産をしたいなど、JAがほとんど自覚していない模様であるが、急速に動いている。不動産業者が、新規農業参入あるいは菜園、市民農園用地として関心を示している事例も出ている。
 いまJAに問われていることは、農地法改正の持つ意義をよく理解し、組合員にその内容を説明し、JAへの結集と地域を守る協同活動を強化することである。
 今回の農地法の改悪は、WTOやEPAなどのもとで、日本農業の解体、JAの解体と地域社会の解体に向けて、企業が農地の所有を含めて農村を市場として把握することにあるとみられる。
 平成14年以降の小泉構造改革の最終的な総仕上げとしてのJAの解体、変質の側面をもっていると思われる。それだけに今回の農地法の改正の意義を明確にJA役職員が理解し、その上で、組合員に農地法などに関する学習会を開催して、JAへの結集に努めることがきわめて重要な課題となろう。すでに行政は、JAを一業者としか位置づけない動きが具体化してきている。農地法の改正問題を単に農地のみの問題として捉えるのでなく、土地問題、組合員の資産管理保全、さらには地域社会を守る取り組みの一環として捉えることが求められている。

(2009.05.15)