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【WTO閣僚会合】来年3月までに交渉の「現状評価」で合意

ラウンド終結の重要性、議長総括で強調
交渉加速、予断許さず

 11月30日から12月2日までスイス、ジュネーブのWTO(世界貿易機関)本部で行われた第7回定例閣僚会合では現在のドーハラウンドに関わる交渉を行う目的ではなかったが、今後の交渉の進め方について各国閣僚が意見交換した。
 最終日に公表された議長総括では▽2010年の第1四半期までに交渉の現状評価を行うための事務レベル作業を続けること、▽交渉のベースは昨年12月に示された議長再改定案とすることなどが盛り込まれた。会合には赤松農相、直嶋経産相らが出席。農業交渉については「多様な農業の共存」の重要性を改めて強調するとともに▽関税削減率が緩和される「重要品目」の十分な数(日本は8%を主張)の確保、▽上限関税の導入反対、▽新たに関税割当品目を設定できる仕組みなど日本の立場を主張した。
 今回の閣僚会合の経過をまとめてみた。

会談後のラミーWTO事務局長(中央)、右は武正外務副大臣(=農水省HPより)

(写真)会談後のラミーWTO事務局長(中央)、右は武正外務副大臣(=農水省HPより)

◆早期妥結促す―ラミー事務局長

 11月30日午後からの全体会合に先立ち赤松農林水産大臣はラミーWTO事務局長と会談した。
 9月の米国・ピッツバーグでのG20金融サミットや、その後のAPEC首脳会合で2010年中の合意が決意されておりこの閣僚会合を機に交渉が加速されることも懸念されている。
 赤松農相は、日本の立場はより自由な貿易を実現していくことと各国首脳が約束した2010年中の交渉妥結をめざすことが基本、と話したうえで「農業分野については輸出国も輸入国も成り立っていくようなセンシティビティが必要。それにもぜひ配慮した解決が望ましい」と強調した。
 そのほか、重要品目の数、関税割当の新設の必要性、上限関税導入は認められないことなど、具体的な数字には触れなかったものの日本の基本的な立場と多様な農業の共存の重要性を訴えたという。
 これに対してラミー事務局長は、各国の利害があって交渉は必ずしも順調にいっているわけではないが「より精力的に努力し合って来年の第1四半期をめどに今までの交渉の評価やとりまとめができればと思っている」と話したという。また、日本の主張も理解しているとしたうえで「そのこととモダリティが一緒に確立できれば。やりようによってはできると思う」との趣旨の発言もあった。
 同席した武正公一外務副大臣は「日本の外交努力に期待する、と最後に強く言っていた」という。
 ラミー事務局長の発言について、来年の早期に閣僚会合を開くイメージなのかと問われた赤松農相は「そういうことではないと思う。事務レベルも9月から交渉をしている。2010年中(の妥結)ということになれば、論点整理や問題点、足枷は何か、ひとつの整理が必要だろうから、そういう意味でこの間の取り組みの評価をやってみると理解した」と述べたほか、日本の外交努力期待する、との発言にも、譲歩を迫られたということではないとの認識を示した。


◆2010年妥結「そう簡単ではない」

 12月1日には、分科会に出席した。
 分科会で赤松農相は昨年からの食料危機の問題について「さまざま形態の農業が共存することが世界の食料安保のために必要」と発言、農業交渉は食料安保と農業の多面的機能を重視し、「各国の農業が相互に発展し合うことができるような、各国のセンシティビティに配慮したルールづくりが行われることを切に望む」と話した。
 また、今後の交渉の進め方について「これまでの交渉を通じてわが国をはじめとする食料輸入先進国にとっては、もはや裁量の余地はほとんど残されていない状況に至っている。妥結のためには各国にとって困難な問題が解決されるだけの弾力性・柔軟性が必要だ」と強調した。
 分科会ではこの発言に対する反論はなかったという。

◆交渉の進め方で思惑さまざま

米国のカーク通商代表(=農水省HPより) 分科会に先立って行われたウォーカー農業交渉議長との会談では、議長は重要品目の数や扱い、上限関税の問題については「議論が進んできている」との認識を示した。ただ、関税割当の新設問題については議論が進んでいないと指摘した。
 ただ、重要品目などの問題で議論は進んでいるといっても具体的な数字が詰められているわけではなく、関割新設問題も含め日本側は「高級事務レベルで詰めていくべき」と指摘した。
 ボエルEU農業委員との会談で、ボエル氏は日本の新政権が戸別所得補償制度を軸とした新しい政策を検討していることに触れ、WTO協定上問題にならない制度か、と赤松農相に質問、「EUのデカップリング政策を参考にしてほしい」と述べた。
 赤松農相はEUをはじめいいところは見習っていきたいと応じ、戸別所得補償制度がWTO協定に「心配をかけることがないような配慮は十分にしていきたい」と話すとともに、政策の基盤として日本が食料自給率50%をめざす努力をすることや「世界各国の農業の再生を重視していきたい」とWTO交渉に臨む姿勢を示した。
 夜に開催された少数国閣僚夕食会は豪州とインドネシアの主催。
 話題のひとつが今回閣僚会合で示した「来年の第一四半期までに交渉の現状評価(ストックテイキング)をすること」だったという。
 G10のようにこれを事務レベルで現状を評価することとと捉えて交渉を整理すべきだとする立場と、閣僚会合を来年3月にも開くべきだという意見など各国の主張はさまざま。
 また、夕食会には米国も招待されたが、カーク米通商代表は欠席したという。夕食会では「やはり米国抜きでは交渉はできない」との指摘や「(来年は)中間選挙があるからなかなか態度は表明しないのでは」といった声もあがった。ラミー事務局長も「米国が来てくれればもっといい会議になった…」と漏らしたという。
 会合全体の印象として「2010年中の妥結は100%みんな言う。積み上げてきた成果を後退させてはだめだともほとんどの国が言う」と話し、来年第1四半期のストックテイキングの必要性にも異論は出なかったとした。
 ただ「総論賛成、各論反対」のような印象を受けたとし2010年中の妥結は「そう簡単ではないなと感じた」と現地で述べた。

(写真)米国のカーク通商代表(=農水省HPより)

 
◆問われるWTOの役割

 議長総括では冒頭で紹介したように、交渉の現状評価をする高級事務レベルでの作業を続けることや交渉のベースを昨年末の議長案とすることなどが明記されている。そのほか昨年からの金融危機、世界経済危機をふまえてWTOが危機を緩和することに重要な役割を持っている強調した。
 一方、気候変動や世界の食料安保、エネルギー安保などにも焦点が当てれたことも記されている。これらの問題はドーハランドが開始された当時とは大きく様変わりした。こうしたことから今回のラウンド自体を仕切り直せ、との主張も出てきているが、議長総括ではこのラウンドを終結させること自体は重要だと釘を刺している。
 国際機関としてのWTOはどうあるべきか、農産物貿易の自由化は世界の課題に応えるものなのか――?。交渉加速化の可能性に予断は許されないが、一方で次世代にどう食料生産を引き継ぐのかを起点に世論に問いかける作業が来年正念場を迎えることになりそうだ。

WTO農業交渉の流れ

(2009.12.09)