財政再建も大きな課題
◆最悪期から半分は回復したが……
2008年9月、米国の大手証券会社リーマン・ブラザーズの破綻に端を発した金融危機、その後の世界同時不況は、これまで再三「100年に一度の危機」と言われてきた。
その危機の程度はどのようなものだったのか。農林中金総研調査第二部の南武主任研究員は「鉱工業生産や輸出といった経済指標でみると、半年で3分の1が失われた。これは大恐慌時を上回る落ち込みでした」と話す。
05年を100とした指数でみると、ピークは08年前半の110。それが09年初頭には70を下回る水準になった。
危機発生後、各国は経済の落ち込みをくい止めるために財政による景気対策、金融緩和、などに動く。
その効果で09年春からは日本も景気は底入れしたとされる。世界経済全体の立ち直りを引っ張ったのは中国をはじめとする新興国。「とくに日本の景気回復は中国への輸出が支えたことが大きい」(南主任研究員)。
金融危機ということも盛んに言われたがこれはどういうことだったのか。
農協共済総合研究所調査研究部の古金義洋主席研究員は「リーマンショック後のいちばんひどいときは、経営状態の悪くない金融機関でもお金を調達できない状況でした。そこで中央銀行が資金を供給したわけです。安い金利で貸し出す金融緩和策です。しかし、現在はそうした金融危機は終息、民間同士で資金調達ができるようになっているといえます」と話す。
◆長期化するデフレ
弊害の除去が必要
景気が持ち直し基調となったのは、先に触れたように中国を始めとするアジア新興国向けの輸出増と、国内でのエコカー減税・購入補助金、家電のエコポイント制度など景気対策が影響していると専門家は分析する。ただし、こうしたエコカーにしても家電にしても、買い換え需要を「先食い」しているともいえ、これらの景気対策は今年半ばにはその効果が一巡するという見方もある。
また、経済が回復基調にあるとはいえ、需要が生産に追いついていないという、いわゆる需給ギャップの状態にある。南主任研究員によると製造業部門で生産と需要のギャップは約20%。非製造業部門も含めたマクロ経済全体で6%のギャップがあるという。
このため“工場と人手が余る”という状態の改善は遅れている。需要減の影響は物価にも及び、消費者物価指数は前年比マイナス1%台の動きが続いている。グラフにはっきりと示されているように2009年半ばからデフレ状況にあることが分かる。政府も昨年11月に現在の物価情勢をデフレと認定した。
農林中金総研が2月に公表した「2009〜11年度改訂経済見通し」では需要の回復ペースが高まらなければ、過剰な生産能力を削減しようという圧力が強まりさらにデフレが長引くことになるとして「デフレは企業・生産者の体力を奪い、雇用改善を阻害するなど国民経済の健全な発展や活力を失わせる。この弊害を一刻も早く除去する必要がある」と強調している。
(図)農林中金総研の「改訂経済見通し」より
◆景気持ち直しは継続
今後の動向については新政権による「子ども手当」の支給など92兆円規模の22年度予算の効果が出るという見方がもっぱらだ。輸出も中国で5月に上海万博が開幕するなどの要因もあって近隣アジア諸国に引っ張られて増加するとされる。
こうしたことから一時期心配された「景気の2番底」には陥らず持ち直しは継続するという。
株式市場の動向では、09年3月の8000円が現在は1万円水準に回復している。JA全国共済会資金運用部の田代明部長によると、最近では企業の業績から株価を評価する「業績相場」となっているという。景気の2番底懸念が後退したことから株式市場は底堅く推移する見込みで、日経平均株価で9500円から11500円の相場展開を予想している。
一方、為替の円ドル相場については、1ドル85円から100円との予想だ。
対ドルで円高基調が続くのは米国経済の回復が遅れているからだ。
米国ではサブプライム問題を機に住宅バブルがはじけ、不良債権処理に追われている。南主任研究員によると住宅市場には持ち直しの兆しが見られるが、商業不動産が不振だという。
◆欧米、中国の動向は?
欧州も景気がなかなか回復しない。古金主席研究員によると欧州の金融機関ではEU域内への貸付が不良債権化しており「日本の90年代と同じ」。最近ではギリシャの財政破綻が取りざたされEUとしての支援策検討が連日のように報道されている。
「米国とEUが世界経済の足を引っ張っている。一方、中国、インドなどでどれだけ支えていけるかという状態」と解説する。
その中国は10%成長の水準にあるが、人民元の切り上げが世界の注目を集める。米国への輸出で経済成長をはかっているが、米国では中国の輸出攻勢で国内雇用が奪われているとの批判が議会から出る。オバマ政権も中国への輸出増を経済回復策として打ち出している。こうして人民元の切り上げを求める声が出てくる。しかし、先日、温首相は人民元は当面切り上げない方針を示したと報道された。
ただ、中国では輸出で稼いだドルを政府が買い上げる。政府が買うということは人民元を売るということになる。こうして人民元を売り続けることが人民元相場を安定させることになる。つまり、国内に人民元があふれ、ここからバブルの懸念が出てくることになる。
とはいえ日本経済の回復は、少子高齢化・人口減という構造要因から、中国をはじめとする外需依存とならざるを得ないことはアナリストが一様に指摘することである。
◆問われる国の役割
世界同時不況によって各国とも財政出動し、今後は財政問題が課題となる。先に触れたギリシャではGDP比の純債務残高が2011年では101.2%と予測されている。EUではほかにイタリアが100.8%だ。ポルトガル、スペインなども政府債務問題が懸念されている。
日本も国債発行がかさみ、2010年にはGDP比の純債務残高は104.6%とイタリアを抜いてG7で最悪となった。
財政再建は欠かせない課題である。古金主席研究員は「財政再建に成功したカナダなどの例に学ぶべき。政策担当者の危機感と大胆な歳出カットがあった」と指摘する。ただ、歳出カットといっても「国は何をすべきか、その原則をはっきりさせて事業仕分けをした」という。今後はわれわれも財政再建問題に直面せざるを得ないが古金氏の言うように「大原則」を明確にしなければならない。持続的な食料・農業政策の展開もそこに期待がかかることは言うまでもない。