◆米国の主張OIEは国際基準
ヴィルサック農務長官の来日の背景にはオバマ大統領の輸出拡大イニシアティブがある。
米国はOIE(国際獣疫獣疫事務局=動物衛生や家畜由来の食品などの安全基準を策定する政府間機関)によって2007年にBSE(牛海綿状脳症)に関し「管理されたリスクの国」と認定された。
OIEのBSEに関する基準では「管理されたリスクの国」と認定されれば、特定危険部位(SRM)の除去さえすれば月齢に制限なく輸出できると定めている。したがって、認定を受けた以上、日本も月齢制限を撤廃すべきだ、というのがブッシュ政権時代の姿勢だった。OIE基準が国際基準だという立場だ。
◆日本の主張月齢制限には科学的根拠
一方、日本はOIE基準だけが唯一の国際基準ではない、との立場。その根拠はWTO(世界貿易機関)協定に含まれるSPS協定(衛生植物検疫措置の適用に関する協定)にある。
同協定では「科学的に正当な理由があればより高い基準をもたらす措置をとることもできる」と定めている(第3条3)。
日本が米国産牛肉の輸入条件を(1)特定危険部位はあらゆる月齢から除去、(2)20カ月齢以下と証明される牛由来であること、としたのは、この条件が確保されれば国産牛肉と「リスクの差は非常に小さい」とした食品安全委員会の答申に基づくもの。
20カ月齢で線引きしたのは、日本は全頭検査で21カ月齢のBSE患畜が確認されたからで、食品安全委員会での検討は科学的な根拠に基づくもの、というのが日本の主張である。
◆オバマ政権で姿勢転換?
ヴィルサック長官はオバマ政権としては「柔軟な対応をしていきたいと考えている」と赤松農相に話し、ブッシュ前政権時代のように月齢制限の即時撤廃を求めるような姿勢からの転換をアピール。「日本にとってセンシティブな問題であることは十分に認識している。検査体制を強化し安全性には自信を持っている。今日をスタートにして協議を進めるようにしてもらいたい」と話した。
赤松農相は日本はOIE基準は「必ずしも科学的ではない」との日本の立場を改めて強調しながらも、輸入条件の話し合いを再開することには合意した。
ただし、特定危険部位が混載される事例が「1工場で3件も出てくるような事故は日本では考えられない」と指摘し、「重要なことは、消費者が安全だと黙って手に取るようにならなければ輸入機会を拡大しても量は伸びない。混載事案がどんどん出てくるようでは誰も手を出さない」と強調したという。
◆月齢30カ月以下の意味
米国側がいう「柔軟な対応」について、赤松農相は、月齢制限撤廃との「中間的な措置として」、月齢30カ月以下への輸入条件の緩和要求も含まれることを認めた。
OIEでは月齢が30カ月以上になると、BSEの原因とされるプリオンが蓄積する脊柱など特定危険部位が存在するようになるとしている。もちろん飼料規制などBSEそのものの発生防止策が重要だが、各国はこの規定に従って牛肉の安全確保策を月齢30カ月基準にしている。
米国には日本のような牛の出生段階から牛肉段階までのトレーサビリティ制度はないが、他国への輸出では月齢30カ月以下を条件とするケースもあり、その月齢識別はしているという。そこで当面はこれを日本に求めるのではないかと見られている。
◆協議再開の課題
協議が再開され、かりに輸入条件が見直されることになれば、これまで政府は「科学的な根拠」が必要だと内外に表明していることから、食品安全委員会に諮問することなる。
ただ、現行の輸入条件を決める根拠となった05年の食品安全委員会プリオン専門調査会の報告が、国産牛とくらべた安全性について「リスクの差は非常に小さい」としたことに
ついては多くの国民から「分かりにくい」との声があがった。
また、当時の専門委員会の最終場面では、「厚労省、農水省の諮問はリスクが同等かどうかを聞いているのだから、同等かどうかを記述すべき。その判断を避けるならその理由を書くべき」といった意見もあり、科学的な検討が十分なされたかという議論があったことも思い起こされる。
そのほか報告書では米国に対してサーベイランス拡充と飼料規制の実施の必要性も指摘していた。
これらの課題を踏まえて今後の行方を見守る必要があるだろう。