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【24年産米の課題】 生産数量目標は2万t減の793万t―被災地との県間調整、や安全基準見直しなども課題

・需要動向と目標数量
・消費拡大の取り組みどう反映?
・県内・県間調整も課題
・放射能の安全基準問題
・需給にも影響を与える放射能問題

 農林水産省は11月30日に食料・農業・農村政策審議会食糧部会を開き、24年産米の生産数量目標を23年産より2万t減らし793万tすることを諮問、食糧部会はこれを了承したことから12月1日、都道府県別生産数量目標を設定し公表した。
 生産数量目標は米の需要をもとに設定されているが、減少の一途をたどっている。食糧部会では、世界の食料不足が懸念されるなか「生産数量目標を引き下げるのに不安を感じる」、「もっと消費拡大の取り組みを」などの意見もあった。一方では、福島原発事故の影響で、出荷停止を余儀なくされた地域もあり、出荷停止米の扱いや今後の米の安全検査体制などの課題も指摘された。24年産米の課題を整理してみる。

◆需要動向と目標数量

 米の生産数量目標は需要見通しをもとに決められる。
 11月30日の食糧部会では、平成22年7月から今年6月までの需要実績は820万tと確定したと報告された。
 この数値も含め過去の消費トレンドから算定された今年7月から来年6月までの需要見通しは805万tとされ、さらにその翌年、すなわち来年7月から25年6月までの需要見通しを797万tと見込んだ。これが24年産米の生産数量目標に関わるデータとなる。
 その一方ですでに確定している22年産の生産実績は824万tだったが、前述のように需要実績は820万tとなり4万tの生産オーバーとなった。
 こうしたことから来年7月から1年間の需要見通し797万tから4万tを差し引き、生産数量目標を793万tとした。面積換算すると全国で150万haとなり、22年産より目標面積にして4000haの減となる。
 23年産の生産数量目標を決める際にも、需要見通しから需要減を見込んで7万t削減した数量とした。しかし、22年産では需要量見通し813万tをそのまま生産数量目標として設定している。
 このように必ずしも需要見通しから削減して生産数量目標を設定してきているわけではないことから、食糧部会では「考え方を整理する必要があるのではないか」(冨士重夫・JA全中専務理事)との意見が出た。

24年産米の生産数量目標


◆消費拡大の取り組みどう反映?

 また、「いざというときにどうまかなうのかを考えると、生産数量目標を下げることに不安を感じる」といった指摘のほか、消費拡大の取り組みを行っているのだから「需要トレンド自体に消費拡大の取り組みを反映させるべきではないか」との意見も。
 実際、米飯給食実施回数は週あたり平均2.9回(平成18年)から3.2回(21年)と増えているほか、増加傾向を見せていた朝食欠食率も20年から21年にかけてわずか1.2ポイントではあるが低下した。 また、総務省の家計調査によると今年10月の家庭における米の購入量は対前年同月比で13.2%もの伸びを示した。新米が出回る10月は例年、いちばん購入量の多い月だが、今年は例年より大きく増えた。
 農水省によると、その要因についてはまだ分析できていないとのことだが、現在の需要量見通しの算定は消費減退を「追認しているようなもの」(廣瀬博・住友化学副会長、日本経団連農政問題委員会共同委員長)との指摘や「やりがいのある農業となるようなシステムづくりに力を入れてほしい」(村松真貴子氏・食生活ジャーナリスト)といった意見もふまえる必要がありそうだ。
 食糧部会で農水省は生産数量目標の設定について考え方を整理する必要があるとの見方を示したが、基本的には6月末の民間在庫量()をもとにする方針を示した。

主食用等生産量、需要実績・民間在庫の推移

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◆県内・県間調整も課題

 24年産米の都道府県別の生産数量目標は表のように配分された。 配分にあたっては17年から22年までの過去6年間のうち、最高と最低の実績を除いた4年の平均値から都道府県別のシェアを算出して配分することが基本だが、24年産については▽生産調整を超過達成したことによる生産数量目標の減少分、▽県間調整の“出し手”となったことによる生産数量目標の減少分、▽これまでに政府売り渡しをした備蓄米の数量分などを配慮して配分された。
 そのうえで生産数量目標は県間で数量目標の調整が行われてきた。具体的にはたとえば大豆生産に力を入れる佐賀県は「出し手県」となり、それを新潟県などが「受け手県」となって主食用米生産を増やしてきた。
 23年産では東日本大震災の津波被害と原発事故による作付け制限などによって、宮城、福島両県はそれぞれ県内で調整を行ったが、それでも調整できなかった分を2県合計約4万6000t分を調整希望数量として全国に提示、その結果、北海道をはじめ12道県が引き受け、2万7000t分が作付けされた。
 結果的に大震災による影響で作付できなかったのは2万t程度にとどまり、農水省は全体の需給には大きな影響を与えなかったとしている。
 24年産についても、とくに福島県では作付け制限が行われる見込みのため、県内・県間調整が必要となりそうだ。


◆放射能の安全基準問題

 原発事故による放射性物資の放出で福島県では4月に約9000haで作付け制限された。米の放射性セシウムの暫定規制値は500bq/kg。セシウムは土壌から玄米に10分の1が移行するとされたことから、土壌中濃度5000bq/kg以上の水田が作付制限の対象となった。
 さらに東北・関東で作付けされた米については、土壌中のセシウム濃度が高い(1000bq/kg以上)市町村で(1)予備調査(収穫前の立毛段階での濃度測定)、(2)本調査(収穫後の濃度測定)を行い福島市で1点のみ暫定規制値超が検出されたが、他は安全が確認されたとして福島県は10月に安全宣言をした。
 ところが、11月になって福島市で1000bq/kgなどの暫定規制値を超える米が収穫されていたことが判明し出荷制限が行われる事態となっている。
 福島県では福島市大波地区で全袋検査を実施しているほか、暫定規制値を超えた米が検出された水田が山際に接していたことなどから類似の条件にある水田が多く点在する6市21市町村で全戸検査するといった緊急調査を行っている。
 こうした事態を受けて年度当初の作付け制限区域の設定の仕方に問題があったのではないかなど、今後、安全確保策、検査体制などの見直しがなされそうだ。そのうえで、かりに作付け制限区域が広がれば24年産米での県内、県間調整などで新たな課題を抱えることになる。
 また、出荷制限米の今後の扱いも課題となる。
 JA全中の冨士専務は食糧部会で、セシウムで汚染された稲わらが未だに処分が決まっていないことを指摘し、出荷制限米についても「国が責任を持つべき」と強調した。農水省は国が処分する方針であると回答した。ただし、賠償はその他の被害と同様、東電に求めることになるとした。


◆需給にも影響を与える放射能問題

 さらに生産・流通に影響を与えかねない問題に、厚生労働省が検討している放射性物質の暫定規制値の見直しがある。
 現在の暫定規制値500bq/kgを100bq/kgに引き下げる方向も検討されているとされており、かりにこうした引き下げが行われると作付け制限の拡大にもつながりかねない。
 また、厚労省は新たな規制値の適用を来年4月1日から実施することを検討しているが、そうなれば24年産の作付けだけではなく、今後販売されていく23年産米にも影響を与える。1年1作の米について杓子定規に新年度から新基準を適用するのは混乱を招く。この問題について農水省は経過措置などにつき厚労省と協議をしていく方針を示した。
 一方、食糧部会で卸業者の団体、全米販(全国米穀販売事業共済協同組合)の木村良理事長(木徳神糧取締役会長)は「放射能問題がすでに需給に影響を与えている」と指摘した。前号でもレポートしたがJA全農のまとめによると10月末時点の連合会集荷実績は前年同期比で90%、出荷契約対比では61%にとどまっている。
 木村氏も「作況101にも関わらず、集荷は非常に悪い」と実状を話し、その要因として放射能の影響がない安全性が確認された地域の米には、“いつでも売れる”との判断があり出荷が遅れているのでは、と指摘した。実際、卸業者と播種前契約したにも関わらず、今の段階になって米が集まらないため一部を契約解消してほしいと声も出ている例があるという。
 安全宣言をした後に福島県では暫定規制値を超える米が確認され検査体制にも不信が広がっている。その結果、安全とされる米の価格が上昇、木村会長は「それが消費減退につながらないか」と懸念も表明、国が責任を持って米の安全性を保障する体制づくりが問われていると強調した。

(2011.12.06)