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【生産法人調査】「2011年度大規模農家・農業法人の経営状況とJAグループに対する意識調査報告」まとまる

・集落営農、高い加入率
・大規模経営は転作も積極的
・補助金率、平均35.6%
・資金の調達先に変化
・米の販売先でJAが減少
・生産資材購買先の傾向
・低コスト支援対策を評価
・将来の経営も見据えて

 農協協会が2002年から毎年実施している「大規模農家・農業法人の経営状況とJAグループに対する意識調査」の2011年度結果がこのほどまとまった。10回めとなる今回の調査では、大規模農家・法人経営の戸別所得補償制度への加入状況と経営に与えた影響などを検証した。分析した谷口信和・東京農大教授は「積極的に加入するとともに、おおむね経営面積規模に応じた交付金を取得、経営の下支えとなっていることが明らかになっている」としている。
 一方、JAグループの事業に対する意識調査では、JAと「販売面での提携」を望む声がこの3年間で着実に増えていることや、雇用者の斡旋や人材教育などを求める意向も増えてきたことが分かった。調査結果の概要を紹介する。

【本調査の実施方法】
 2011年10月に(社)農協協会から対象農家・法人にアンケート票を郵送。12月末までに回収を終了した。対象はこれまでの調査に協力を得てきた大規模農家・法人を中心に新たに把握した経営体。今回、分析の対象とすることができた回答は347法人と62の大規模農家の合計409。
 分析は谷口信和・東大大学院農学生命科学研究科教授(現在は東京農業大学教授)と李侖美・(財)日本農業研究所研究員が行った。


戸別所得補償制度
大規模経営を「下支え」 水田経営の高度化も進む


◆集落営農、高い加入率

 今回は2010年度に実施された戸別所得補償モデル対策の加入状況を聞いた。(以下、米戸別所得補償モデル対策を「米モデル対策」、水田利活用自給力向上対策を「水田利活用対策」と表記)。
 表1は経営形態別の米モデル対策への加入状況。法人経営全体の加入率は82.7%と非法人経営の66.7%を上回っている。その法人経営のうちでも集落営農組織が含まれる農事組合法人がもっとも高く89.4%だった。
 一方、水田利活用対策の加入率(表2)は、米モデル対策にくらべ低く全体で68.1%となった。米モデル対策は生産数量目標に即して米の生産をするのが条件だが、この対策への加入率の高さが示された。
 また、水田利活用対策でも法人経営の加入率のほうが高く、とくに農事組合法人が積極的に加入している結果となった。この結果から、地域との密着度の高い集落営農組織を含む農事組合法人がもっとも積極的に戸別所得補償制度に参加していることが示された。
 同時に2つの対策ともに、法人経営のなかでも有限会社より株式会社が高いことから谷口教授は「企業的性格の深化にともない、戸別所得補償制度に積極的に対応している姿が浮かびあがってきた」と指摘した。
 経営面積規模別に分析した加入状況をみると、規模が大きくなるほど加入率が高くなる傾向が明確に示された(表3)。そのなかでも30ha以上層では90%以上となっている一方、10〜30ha層は80%台、5〜10ha層は60%台、5ha未満層は50%未満という「加入率の段差」が見られた。
 この結果から、「米モデル対策は大規模化や法人化のよきパートナーの役割を果たしているのではないか」と谷口教授は指摘する。


◆大規模経営は転作も積極的

 2つの対策への加入状況を水田経営面積別にまとめたのが表4。 米モデル対策への加入率は79.1%、水田利活用対策(表では転作)は67.7%。米の生産調整には参加せず、水田転作だけを実施する割合は全体で2%と低いことが示された。
 ただ、米モデル対策だけに加入する割合は、規模が小さいほど高くなる。この層では水田転作に積極的に取り組んでいないことが想定されるが、同時に10ha未満層となるといずれの対策にも非加入という割合が高くなっていることが示された。
 つまり、小規模な経営では米の生産調整に参加しないという選択をしている経営の割合が高いことが指摘できる。
 一方、30haを超えるような規模になると非加入はほとんどなく、米の生産調整とともに転作への取り組みもする経営が8割を超えることが示されており、この規模の経営では「水稲作も転作も分け隔てなくこなす本格的な水田農業経営が成立していることが確認できる」と谷口教授は分析している。


◆補助金率、平均35.6%

 戸別所得補償制度に加入した経営体から、今回の調査では取得した補助金・交付金の額を調べた。
 それをもとに農産物売上高、その他の事業収入、営業外収益の3つの収入のうちに占める、補助金・交付金額の割合(これらは営業外収益に含まれる)を分析した。
 それによると全体では収入金額の35.6%を補助金等がしめていることが分かった。また、表5に示したように、経営規模階層を30ha未満と30ha以上層に大きく分けて平均補助率をみると、両者の差に有意な差が見られないことが分かった。「大局的にみれば補助金率は規模に中立的に形成されている」と指摘する。 ただし、階層内での補助金率の分布をみるとほぼ規模に比例して補助金率の割合が上昇することも示されている。
 その他の調査項目で大規模経営のほうが新規需要米など新しい取り組みにより積極的であることも示された。 これらの分析結果から谷口教授は、大規模農家・農業法人は「戸別所得補償制度を肯定的に捉え積極的に加入するとともに、経営の下支えを獲得していることが明らかとなった」と分析している。
 ただし、米モデル対策の予算のあり方についての質問では、「固定支払い部分を手厚く」という声が多かったものの、「よく分からない」という声も3分の1占めるなど(表6)、「少なからぬ経営者が政策内容を十分に熟知していない」こともうかがわれ、性急な政策の変更ではなく、現場は漸進的な改良、改善を望んでいるのはないと指摘している。

 「2011年度大規模農家・農業法人の経営状況とJAグループに対する意識調査報告」まとまる

「2011年度大規模農家・農業法人の経営状況とJAグループに対する意識調査報告」まとまる

就農者の斡旋もニーズに

「販売での提携」をJAに期待


◆資金の調達先に変化

 この調査では大規模農家、農業法人のJAグループ事業への意識を聞いてきた。
 資金の調達先では、JAバンクが54.8%ともっとも高く、次いで政策金融公庫が53.1%となっている(表7)。ただし、過去2年間の調査結果とくらべると、政策金融公庫が継続的に増えていることが分かる。
 また、今後考えたい資金調達先では、第一候補が「公庫」の43.9%とトップ。JAバンクは25.4%だった。JAバンクは第2候補のトップで32.7%となった。


◆米の販売先でJAが減少

 農産物の販売先を品目別に集計したのが表8。JAの麦、大豆でのシェアは飛び抜けて高い。
 一方、米は09年調査では42.7%、10年は43.0%だったが、今回の調査では38.7%と低下した。
 米の販売先として今後増やしたいのは「直売所などでの消費者直売」がもっとも多い(表9)。
 一方、JAに米を出荷する理由では「代金回収のリスクがないから」がもっとも多く、37.3%。「米の全体需給と価格安定のため」の項目も前回、前々回調査よりも増えている。
 表11は今後、米に関してJAに期待すること。ここでは「高価格での販売」が31.1%ともっとも高い。逆にJA以外に出荷する理由も調査しているが、その結果では「業者に販売したほうが手取りが高い」が53.6%とトップだった。いずれもこれまでの調査結果よりも高い数字となっており、米については「価格」がより大きな問題になっていることが示されている。
 ただ、表10で示されているように、多くの品目でJAに出荷する理由として「価格の安定性」と「取引の継続性」が高い水準となっていることも示された。


◆生産資材購買先の傾向

 表12に生産資材など購買物購買先の割合を示した。
 「JA・JA連合会」からの購買の割合が50%を超える品目はない。09年、10年の調査では肥料と農薬では50%以上となっていたが、今回は肥料47.1%、農薬47.6%という結果となった。
 購買先でJAグループを選んだ理由は(表13)、肥料、農薬、園芸用施設、園芸用資材では「価格」と「品質」の割合が高い。農業機械では「アフターケア」と「価格」が高い。とくに大型農機は常に故障の危険にさらされていることから、点検・修理などのアフターケアが価格にもまして購入先選択の重要な要因となっていることが考えられる。
 一方、調査ではJAグループ以外から購買する理由も聞いているが、どの品目も「価格」の回答率が40〜60%以上と圧倒的に多かった。
 その価格については業者よりJAのほうが高いと回答する割合はどの品目でも過半を超えた。ほぼ同価格との回答は3割程度となっている。
 JAについて5年前の価格とくらべた変化を聞いたところ、どの品目も「高くなった」、「変わらない」を合わせて8割を超えた。ただ、この両者では「変わらない」との回答のほうが多いという結果になっている。


◆低コスト支援対策を評価

 JAグループのさまざまな生産者支援対策についての利用状況を調査したのが表14。
 「低コスト支援(農薬大型規格)」が37.9%でもっとも高く、「担い手農家のニーズに対応した情報や話題の提供」31.8%、「販売支援、提案(共販以外の多様なサービス)」31.3%、「肥料満車直行」29.6%となっている。
 このうち「営農用燃料高騰対策」については、09年調査では37.2%と高く、原油高騰時の対策として高く評価されていたことが分かる。いずれにしてもコスト削減策へのニーズが高いことが示されている。
 こうしたJAグループの事業に対する満足度を聞いたのが表15。満足度が高いのは「低コスト支援」などで、低いのは「情報や話題の提供」であることが分かる。
 表16は今後の利用の意向を聞いたものだが、燃料高騰対策や農機のリース事業などコスト削減対策への期待が高いことが分かるが、同時に「情報や話題の提供」にも期待が集まっている。先の満足度調査ではこれはもっとも満足度が低い項目だったが、今後への期待は高いことが伺える。
 経営コストの削減はもっとも重要な課題ではあるが、将来の経営を考えるうえではJAからの情報提供などが強く求められているといえそうだ。


◆将来の経営も見据えて

 表17はJAとの連携や提携についての考えを聞いたもの。
 「農薬、肥料などの生産資材購入に関わる提携」が47.0%でもっとも多く、「販売面における提携」42.4%、「生産技術の提携」42.1%と続く。
 「販売での提携」は09年調査34.7%、10年調査38.4%でそのニーズが着実に高まっていることが分かる。
 また、「雇用者の斡旋など人材教育に関わる提携」も09年調査8.4%、10年調査10.6%で、今回は13.1%と増えたきたことが注目される。
 谷口教授は今回の分析で、規模拡大にともなう就農者の確保のほか、役員の高齢化による後継者育成も課題となっている経営も少なからずあるなど、人材の確保が現場で必要とされていることも指摘、「担い手の斡旋や教育には全農を含めたJAグループが今後とも積極的に取り組むべきではないか」と指摘している。

「2011年度大規模農家・農業法人の経営状況とJAグループに対する意識調査報告」まとまる

「2011年度大規模農家・農業法人の経営状況とJAグループに対する意識調査報告」まとまる

「2011年度大規模農家・農業法人の経営状況とJAグループに対する意識調査報告」まとまる

(2012.06.12)