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設立目的を明確に地域の課題解決にビジョンを

JA出資農業生産法人

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パネルディスカッション風景
パネルディスカッション風景

 全国のJA出資農業生産法人は平成17年3月末の151法人から急増し、今年3月現在で265法人となった(JA全中)。
 法人である以上、収益の確保なども課題となるが、耕作放棄地防止につなげる作業受託や、特産物の販売力の強化などJAが地域農業のリーダシップを発揮する核となる存在としても期待さ れる。
 3月にJA全中が開いたJA出資農業生産法人担当者交流会では地域農業の課題を捉えたうえで法人の「設立目的を明確にする」ことと、「課題解決に向けたビジョンを描く」ことの重要性が強 調された。
 東京大学の谷口信和教授は水田・畑作経営所得安定対策(品目横断的経営安定対策)の実施による日本農業の構造再編は、認定農業者を担い手の軸とする方向で進めようとするものだった が、実際は「集落営農の急激な組織化によって再編が進行した」と指摘した。
 谷口教授の分析によると、水田・畑作経営所得安定対策の対象には、集落営農組織であることが多い特定農業法人が認定農業者として含まれていることなどに着目して、農水省の統計を再 整理した結果、都府県ベースでは集落営農の作付け面積シェアは54%程度になるという。こうした推計結果から、集落営農を軸とした農業構造再編にはJAが力を発揮し、その際に「JA出資農業生産法 人も一定の役割を果たしている」と話した。
 また、担い手不足や耕作放棄地の増加などで、地域農業の課題は、農作業受託にとどまらず、地域の農地を引き受けて農業経営をする組織が必要になっている状況にあることも、JA出資法 人設立の意義があるとした。JAにとってもJA事業との結合による販売・購買事業の維持、発展、さらに法人に研修機能を持たせることで、担い手の育成と組合員基盤の拡充にもつながる取り組みだと 指摘した。
 谷口教授はJA出資農業生産法人の類型には個別経営体への出資、集落営農組織の法人化、JAの現業部門の別法人化、さらに 水田・畑作経営所得安定対策の受け皿的法人などがあるが、「どう地域農業の課題、条件を捉えるのか」が法人設立の出発点となるべきであり、法人設立後は「地域に還元できる 経営水準」が求められるなどと話した。

組合員の農地はJAが守る
(有)グリーンパワーなのはな(富山県・JAなのはな)

 富山県のJAなのはなが出資し平成8年に設立された。設立のきっかけは「担い手」の高齢化で自己経営が困難になってきたこと。作業受託で規模をある程度拡大していた担い手組合員から 、「地権者に受託農地を返そうとしても、地権者ではもう農業はできない、JAが農作業受託できないか」という声があがったという。
 こうした声はすでに昭和50年代の後半から出ていて、地域によってはJAの営農指導員がチームを組んで農作業を請け負っていた。組合員はそうしたJA職員の姿を見て「将来にわたり安心し て農地を預けられる組織」づくりをJAに要望した。法人の理念は「組合員の農地はJAが守る」だ。
 現在の経営面積は約200ha。事業内容は6品種を作付けているコメのほか、大豆、野菜、花。作業受託と農産物直売、また、JA施設の作業請負も行っている。
 社員は正社員10名と約9か月間雇用する臨時職員が16名、JA出向社員など。農閑期にはJA施設の作業の請負が収入源となる。JAなのはなの太田吉孝営農部長によれば、そのほか「地域の便利 屋」事業も経営のひとつになっているという。
 コメの作付け栽培面積は135haでこのうち45haは契約栽培。自社で販路を開拓して学校給食や実需者への供給も実現しているほか、JAの販売担当部署が販路を開拓しそれがフィードバックさ れてくることもあるという。
 ただ、管内全域を事業領域としているため、引き受けた農地は1700筆にもなっている。農地の集積が課題で、また、規模を拡大してもコメの価格下落で19年は米販売額が2000万円もの減。 法人経営としては、適正な経営規模の見極めと安定的な収益確保が課題となっているという。

農地のクリーン化が目的
(有)ホスピタル朝日(長野県・JA松本ハイランド)

 長野県の朝日地区は県下有数のレタス産地。370ha作付けし年間225万ケースを出荷しているが、長年の連作の結果、レタス根腐病の発生が大きな問題となってきた。そこでいわば「成人病 」となった農地をJAが受託し、そこにキク科以外の作物を作付けて地力を回復させる事業を始めた。委託農地が年々増えたため、平成17年にJA出資法人として設立したのがホスピタル朝日だ。
 地力を回復させるまで、緑肥、ジュース用トマト、業務用キャベツ、アスパラなどを作付け。その生産物が法人の経営品目となる。クリーン化まで3〜6年かかかり、「治療」が終わればレ タス生産者に農地を返すという事業だ。全農県本部や行政も出資している。農地のクリーン化が目的だが、廃業農家の農地も受け入れることで耕作放棄防止にもなっている。全農県本部が出資するこ とによって、業務用キャベツの生産、販売が実現した。
 労働力は地元中心の季節雇用でそのほか新規就農者育成の場ともしており、3年間研修させたのち、農家として自立させる試みも。自立の際は法人でクリーン化した農地を引き継がせるとい う。研修期間中は法人からのアルバイト料のほか県の担い手育成資金が月4万円支払われる。
 ただ、クリーン化農地は生産者に返還することが事業の目的のため、法人としての安定的な経営面積の確保が将来の課題になりそうだという。
 JA松本ハイランドは、このほか松本市内で遊休農地化が進んでいた地区に、中核農家、集落営農に次ぐ「第3の組織」として、(有)アグリランド松本を設立している。水田、畑の耕種部門 のほか廃業した畜産農家の畜舎を引き継ぎ、肉牛経営も行うことで通年で6名の雇用を実現しているという。
 同法人の設立が刺激となった地区には相次いで3法人が誕生。遊休農地も減少し地域農業に安心感が生まれた。JAが出資したレストランとワイナリー経営をする別の法人と連携、加工用ブド ウ生産の取り組みも。新規就農者の研修の場にもなっている。
 ただ、ほかに法人が設立されたことから、収益性の高い農地の確保に限界も生じてきているという課題もある。現在は担い手育成が困難な中山間地域での事業範囲拡大を模索しているとい う。

地域資源の継承と再配分が目的
(有)ジェイエイファームみやざき中央(宮崎県・JA宮崎中央)

 農地を貸したい、売りたいという組合員の意向が増えるなか、JAの農地保有合理事業などは機能せず、一方で建設業などの新規参入が地域に増えてきた。こうした状況を受け、新たな地域 農業振興の担い手としてJA出資型農業生産法人を18年に設立した。「JAと一体となった総合的な営農支援体制」づくりを基本目標に掲げている。
 矢野祐一同社専務はJAの営農企画課長時代から法人設立の合意形成に動き、現在、出向して法人運営にあたっている。
 設立1年目は、育苗や農作業受託などJAの既存事業の引き継ぎのほか、育苗ハウスの空き期間を利用した野菜栽培、研修生受け入れなど新規事業に取り組む。2年目は「経営資源の確保」を 課題に、農地、温室、利用権設定面積を拡大し、水稲苗販売、野菜苗販売、農産物販売、堆肥散布事業などを広げた。
 今年度はJAの増資を受けて、5haの団地を取得。キュウリ、トマト栽培にも取り組むほか、離農を考えていた高齢農家などの水田を集積してそうした農家を社員として雇用するかたちで農業 を維持することも構想している。また、市と連携して観光農園の運営も予定している。
 農地、ハウス、農業機械、技術など高齢化、都市化などで使われなくなっていく地域資源をJAが集積し、その活用を支援することがJAの役割だと矢野専務は考え、JA出資法人はその機能を 具体的に発揮する存在だと強調した。報告では1職員の発案から法人設立まで組織合意を得るまでのプロセスの重要性が説かれた。

(2008.04.15)