クローズアップ 農政・フードビジネス

フードビジネス

一覧に戻る

群馬発全国展開めざして

環境に優しいモータポンプを開発
(有)トスタック

 地球温暖化にどう対応するのかが世界的に重要な問題となっている。日本は京都議定書で約束した二酸化炭素削減を実現できるのかどうか危ぶまれている。地球温暖化が進めば農業にとっても計り知れない影響が予測されている。いまの農業環境を守るために、農業が何をできるのか、なにをしなければならないかを考える必要がある。その1つのヒントが群馬県伊勢崎のベンチャー企業で開発された技術にあるのではないだろうかと思い取材した。

◆社会貢献したいと定年退職後ベンチャー企業を立ち上げる

河本孝人社長
河本孝人社長
関 充さん
関 充さん

 まだほとんど製造設備が設置されていない広い工場に、野菜栽培などで使われる散水ポンプの大きなエンジン音が響き渡り、排気ガスの臭いがたちこめる。エンジンが止められ、今度は電動モータのスイッチがリモコン操作で入れられる。ほとんど音がせず、排気ガスもない。
 群馬県伊勢崎市の(有)トスタック河本孝人社長が開発した「バッテリ移動用ポンプ」のデモンストレーションでのことだ。確かに静かで排気ガスもないけれど、本当に水を汲み上げ散水することができるのだろうかという疑問がわく。それを見透かしたかのように河本さんは5m下にある水槽からこの装置を使って水を汲み上げて見せてくれた。
 河本さんは、自動車関係の会社で、エンジンジェネレータや電気自動車などさまざまな開発に携わってきた。そして定年退職したときに「いままで蓄積してきた知識や技術を活かした研究開発をすることで、社会貢献をしたい」と考えてこの会社を設立した。そして群馬県が県内11か所にセンターを設けて進めていたベンチャー支援事業を伊勢崎でコーディネートしていた関充さんの協力をえて「群馬県発で全国展開したい」とこの開発に取組んできた。
 県のベンチャー支援は今年の3月で打ち切りとなったが、関さんは「群馬発の全国展開」を見届けたいと個人的な立場でいまでも河本さんを応援している。

◆太陽光利用で、排気ガスなし、臭いなし、音静か

姿は小さいがパワーは充分
姿は小さいがパワーは充分

 河本さんは「いま社会で一番困っていることはなにか」と考えたら、京都議定書と温暖化の問題にいきついた。そして二酸化炭素を削減しなければならないが、そのためには何をと考えたときに、電気自動車を開発したノウハウを応用すればいいのではないかとの発想のもと、「ガソリンを使い排気ガスがでているものをなくせばいい」ということで、農業用に使われているエンジンポンプを電動にする開発に取組んできた。
 エネルギー源を電気にすることで、排気ガスを出さず大きな音や臭いがしないなど、環境に優しいことが大きなポイントとしてまず挙げられる。エンジンポンプの音や臭いは風向きによってかなり広範囲におよぶことがあり、ほ場が住宅地に隣接していると住民とのトラブルを引き起こす可能性が高いが、そうした心配も無用になる。
 しかも太陽電池と軽自動車用バッテリを利用するわけだから、太陽エネルギーによって何度でも再充電することができるので、ガソリンのように燃費の心配もいらない。ガソリンの場合には危険物なので取扱量に制限があったり、注入など取扱いに注意が必要だが、河本さんの装置なら、低圧電源使用で、バッテリ液の交換の必要がないメンテナンスフリーのバッテリであることから危険性がなく安全だといえる。
 電気で駆動するということは、エンジンポンプのように始動時に力を入れてリコイルを引っ張る必要がなく、普通の電気のスイッチで起動できるしリモコン操作も可能だということになり、高齢者でも簡単に操作することができる。

◆農業以外にも広がる用途

 現在、農家のエンジンポンプ保有台数は150万台で、そのうち実際の年間稼働台数は100万台と推定されている。そして年間の平均稼働日数は30日程度で、1日に使うガソリンは5リットル/台。これに購入時のガソリン価格を乗じた金額がランニングコストの削減効果となるわけだ。
 エンジンポンプの場合には管理が悪いと4〜5年で故障するが部品点数が多くメンテナンスがけっこう大変だという。そのためか毎年買換え需要が5〜10万台あるという。河本さんのモータポンプだと磨耗する部品が少ないためメンテナンスはさほど必要ないようだ。
 実はこのモータポンプは一度NHKニュースで紹介され大変な反響があったという。それは農業関係だけではなく、東南アジアやアフリカで支援活動をしているNPOやNGO法人から、井戸や川などから水を汲み揚げるのに使いたいという希望があった。なぜなら、そういう地域の人は貧しくてガソリンを買うことができない。けれど太陽は燦々とふりそそいでいるからだ。
 このほか農業以外のニーズがあることが分かったため、工場設備を設置し、今年中に1000台は製造したいと河本さんはいう。それが実現すれば「群馬発全国へ」から「群馬発世界へ」も夢ではないかもしれない。

部品点数も少なく、耐久性にもすぐれている
部品点数も少なく、耐久性にもすぐれている

(2008.04.28)