MA米の事故米転売が連日新聞テレビで報道されている。工業用を食用に転売したという許しがたい事件だ。
だが、報道をみていると残留基準を超えた農薬が検出されたためか、いつのまにか「事故米」が「汚染米」や「基準値の○倍の農薬に汚染」となり「食の安全が根底から覆された」という論調の記事が多くなっている。残留基準値を超える農薬が農産物などから検出されるたびに、農薬の残留基準値がどのように決められているのかを正しく理解せず感情的に「食の安全性が脅かされる」と消費者の不安を煽るような報道がされることが多い。
今回の場合、食品のリスク評価を担当する食品安全委員会は、9月5日から同委のホームページで「非食用の事故米穀から検出された」「メタミドホス(9月12日更新)」「アセタミプリド(9月12日更新)」「アフラトキシンB1(9月17日更新)」についてこれを使用した食品を食べることによる健康への影響についての試算値を公表している。
これによると、殺虫剤メタミドホス(有機リン系)は日本では農薬登録がなく国内での使用は禁止されているが、国際機関Codex、米国、豪州、カナダなど多くの機関・国で基準が設定されている。日本ではポジティブリスト制度導入に際して、諸外国やCodexの基準を参考に、米、野菜等多くの作物で基準値設定されている。
短時間(24時間以内)に食べても健康に悪影響を与えない量(急性参照量=ARfD)は、1日体重1kg当たり0.003mgなので、体重50kgの人の上限は0.15mgとなる。0.05ppmのメタミドホスを含む米の場合は、1日に3kg(0.15÷0.05=3)食べないとこの値に達しない。これは米20合に相当し、現実的には1人で食べきれる量ではない。
そして毎日一生食べ続けても健康に悪影響が生じないとされる「ADI(1日摂取許容量)」は、0.0006mg/kg体重/日なので、体重50kgの人の場合は0.03mgが上限となる。0.05ppmのメタミドホスを含む米の場合、1人で毎日0.6kgを食べるとこの値になる。これは米4合に相当する。今回の事故米を一生涯これだけ食べつづければ健康に悪影響がでるということで、これも現実的ではない。
同じように殺虫剤のアセタミプリド(ネオニコチノウイド系)については、日本で農薬登録されており、残留基準は、大麦・ライ麦・トウモロコシなどについては0.02ppmとなているが、米には暫定基準が設定されておらず0.01ppmの一律基準が適用される。
これのADIは0.071mg/kg体重/日。ARfDは0.1mg/kg体重/日となっており、0.03ppmのアセタミプリドを含む米を体重50kgの人が食べる上限は、ADIで1人で毎日118kgとなる。またARfDは1人で1日167kgも食べることになる。これは平均的な日本人が1年間に食べる量(61.4kg)の2.7倍に相当する。
このように、食品衛生法で全食品から「検出されてはならない」とされているカビ毒のアフラトキシンB1を別にして、今回検出された2つの農薬を含む米を食べても健康には悪影響がないということを食品安全委員会は明らかにしている。
農水省も「健康には問題がない」というだけではなく、「安全性については、食品安全委員会のHPを見てください」と国民やマスコミに伝えるべきだったのではないか。また、マスコミもこうした情報を確認して報道すべきではないのかと思う(なお、残留基準については、シリーズ農薬の安全性を考える第6回「安全の上にもさらに安全に配慮した残留基準値」 /series/shir158/shir158n08061012.htmlを参照)。