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いまGAPは(下) 生産者自らが組み立てていくプロセスを大事に

 前回、国内では20くらいのGAPがあるが、その内の主なGAPについて紹介した。今回は、GAPのこれからについて、国の動向も含めて紹介すると同時に、GAPの担い手であるJAグループの考え方についても紹介する。

◆共通の基盤づくりを目指す農水省

 このようにさまざまなGAPが存在することから農水省は「GAP手法導入・推進会議」(推進会議)の下に「GAPの推進に係る情報交換会」を設置し、今年7月から10月にかけて4回の会合を開催した。ここでは、埼玉県、愛知経済連、全農千葉県本部のほか、JGAPとグローバルGAP認証を取得し生協GAPも実施している青森県の農業生産法人・片山りんご(株)、グローバルGAPを取得している熊本県の(有)松本農園、そして仲卸の横浜丸中青果(株)、量販店のイオン、イトーヨーカ堂におけるGAPの取り組みや考え方が報告され、今後の課題などが検討された。
  そして第4回会合では、「共通の基盤づくり(プラットフォームの構築)を進めることが適切」であるということを骨子とする取りまとめを行い推進会議に報告した。
  今後は、推進会議の下にワーキンググループを設置し、「プラットフォームの構築」を行っていくことになる。まず「品目を横断する共通部分」を構築しその上に米や野菜など品目別の「標準GAP」を作成していき、それが現在の「基礎GAP」と置き換わっていくことになる(森田健太郎農水省生産局技術普及課新技術調整係長)が、「1年くらいはかかる」のではないかと予想される。

◆すべてのGAPを包含した基準を目指すGAP協会

 日本GAP協会は、現在のJGAP2・1版が発行されて2年以上経っているので3版への改定を考えているが、小売流通業者も理事となったことから、そうした人たち「全員が関わるもの」にしたいという。つまり、他のGAPを包含したGAPをつくること、それが行動目標に掲げた「標準的なGAPの開発」の意味だと武田泰明専務理事(事務局長)は話す。
  そして「標準的」とは、「たくさんの人たちが活用するGAP」であり、「作る人、売る人、食べる人がGOODか否かを判断する社会的合意をつくる場」でもあると語る。
  だが残念なことに「作る人」として先進的な生産者は参画しているのだろうが、圧倒的に多数を占める普通の生産者が参画しているとはいえない。

◆JAで指導できる人材育成を―JAグループの取り組み

 そこで最後に、普通の生産者を組織しているJAグループの取り組みをみていきたい。
 JAグループでは、栃木県のようにJAグループと県が連携して実践モデル産地を設置して検討し、7品目の「栃木県GAP実践マニュアル」を作成している例がある。20年産からはすべてのイチゴ生産者が県独自のGAPに踏みきったというような産地やJGAPの認証を取得する先進的な事例がある一方、これからどうするかを検討する産地までさまざまだといえる。
 そうしたなか今年8月、JA全中とJA全農はGAP手法導入を「指導できる人材をJA段階で育成する」(小池一平全農営農総合対策部長)ために、「GAP手法導入の指導者・ファシリテーターの養成研修会のテキスト」として「GAP導入ハンドブック」を作成し、研修会を全国レベルで4回開催すると同時に、その研修会参加者を中心に県段階での研修会を実施してきている。

◆生産現場から組み立てるプロセスを重視

 この「ハンドブック」では、生産部会の生産者グループが「自分たちで課題を見出し」ていくことを強調している。そして「自分たちの農業生産における危害要因を見極め」、のような「魚の骨」を描くなかで「どのような管理をすべきか考えチェックリスト等を作成して管理方法を組み立てていく」という「自分たちで組み立てるプロセス」を重視している。なぜなら目的意識もないまま「用意されたチェックリストに記入する」なら「無味乾燥な事務作業を増やす」だけで、モチベーションもあがらず、生産部会の活性化にもつながらないからだ。

 こうした自分たちで考え組み立てるGAPのPDCAサイクルを実行するなかで、取り組んでいる内容を、実需者や消費者にきちんと発信し、理解してもらうことが大事だといえる。取り組まれているレベルはまだ先進的なGAPに比べれば低いかもしれないが、目指すものをも含めてきちんと伝えることで、国産農畜産物に期待する消費者にはその姿勢が伝わるはずである。
 すでにJGAPなど出来上がっているGAPがあるのに、現場から作り上げる必要はないのではという批判もある。しかし、GAPは生産工程を管理するものだから、生産者一人ひとりが納得して、自分のものとして取り組まなければ意味がない。納得して取り組むから「食の安全」も保障できるのではないだろうか。遅いかもしれないし、ゆっくりかもしれないが、着実に多くの普通の生産者のものにしていくためには、必要なプロセスだともいえる。そして、取り組むなかで意識が高まればJGAPに挑戦することも、量販店や生協から要請されれば、そうしたGAPを取り入れることも容易になるのではないだろうか。
 焦らず着実に歩んで欲しい。それが日本の農と食を守ることになるのだから。
いまGAPは(上)

(2008.12.03)