【食料・農業・農村政策審議会企画部会委員】
▽荒蒔康一郎(キリンホールディングス(株)取締役会長・日本経団連農政問題委員会共同委員長)▽岡本明子(環境カウンセラー・主婦)▽榧野信治(読売新聞東京本社論説副委員長)▽古口達也(栃木県茂木町長)▽櫻井敬子(学習院大法科大学院教授)▽鈴木宣弘東京大大学院教授(部会長)▽玉沖仁美((株)リクルートじゃらんリサーチセンター客員研究員)▽平田克明(平田観光農園代表取締役会長)▽深川由起子(早稲田大政治経済学術院教授)▽藤岡茂憲(藤岡農産代表取締役・日本農業法人協会副会長)▽松本広太(全国農業会議所専務理事
)▽茂木守(JA全中会長)▽森野美徳(都市ジャーナリスト・日経広告研究所主席研究員)▽吉川洋(東京大大学院経済学研究科教授)
●農政改革関係閣僚会合メンバー
▽河村健夫・内閣官房長官▽石破茂・農政改革担当大臣(農林水産大臣)▽与謝野馨・経済財政政策担当大臣▽鳩山邦夫・総務大臣▽中川昭一・財務大臣▽二階俊博・経済産業大臣(主宰者:内閣官房長官、農政改革担当大臣)
◎特命チームメンバー
▽内閣官房内閣参事官▽内閣府大臣官房審議官▽総務省大臣官房企画課長▽財務省主計局総務課長▽農林水産省大臣官房総括審議官▽経済産業省大臣官房審議官【アドバイザリーメンバー】▽大泉一貫・宮城大大学院事業構想学研究科研究科長▽鈴木宣弘・東京大大学院教授▽中村靖彦・東京農業大客員教授
◆国のあり方に関わる計画
野村哲郎農林水産大臣政務官(左)が林良博審議会長に諮問文を手渡した。左は企画部会の鈴木宣弘部会長 |
食料・農業・農村基本計画(以下、基本計画)は、基本法で策定することが決められたもので、食料自給率の目標と政府が行うべき施策を定めることになっている。基本計画はおおむね5年ごとに見直すことになっており、現行の計画を決定した平成17年から4年経過したことをふまえ、この日、審議会に新基本計画策定が諮問された。
今後の具体的な議論は審議会企画部会の場で行われ、2月下旬には現行基本計画の進捗状況を検証、3月以降、月に1回のペースで開催する。農水省政策課では各回のテーマは分野などを限定しない方針で、夏頃までに各施策の課題・論点を洗い出し、秋以降、整理された論点をふまえて審議、22年3月に審議会として答申をまとめる予定だ。
企画部会長は鈴木宣弘東大教授。「農村の現場では生産資材の高騰しても農産物価格は思うように上がらず経営も苦しくなっている。一方、国際交渉が進みさらに安い農産物が入ってくる状況にもなりかねない。食と農をどうするかは、国のあり方に関わる問題」と今回の基本計画策定は国民生活の基盤に関わる重要な作業と位置づける。
農水省が議論の素材として示した検討項目案では、中長期的には世界の食料需給のひっ迫が見込まれると、これまで食料過剰基調から不足基調に様変わりしたことを指摘。しかし、日本農業は「生産構造の脆弱化や農村地域の疲弊が深刻化している」。こうしたなかで、日本農業を持続可能にし、また、「世界全体の食料需給の安定化に貢献する観点」から、現行の政策を「あらゆる角度から見直すべき」と提起した。
検討項目では、元気な担い手を確保するための、総合支援や若者の就農支援、農地の面的な活用策や水田をフルに活用した戦略作物の増産と自給力の向上などを挙げた。また、食料輸入国としてのエネルギー・生産資材の安定確保や、世界の食料生産の促進に貢献する国際協力などもある。
さらに厳しい経済状況をふまえて、農業を起点とした「資源総合産業」の確立という視点も打ち出すなど、「地域に雇用とにぎわいを生み出す農村振興」も検討テーマに掲げている。
鈴木部会長は審議会の検討について、「疲弊した農業の現場に、速効性があり分かりやすく消費者も納得できるような政策の提示が必要だ。シンプルだけれどもポイントを押さえた制度体系ができれば」と話す。
◆自給率か自給力か
この日の審議会はフリートーキング。
基本計画で定めることになっている自給率目標については、昨年末に農水省が10年後にカロリーベース自給率50%との目標を打ち出した。
この自給率問題では、麦・大豆、米粉用米など具体的な戦略作物を定め、「いつまでに何%の自給率向上を達成するのか、そのための投資はどれだけ必要になるのかなど具体的に示すべき」との意見が出た一方、「数字が先にあるべきではない。経営、技術面からどれだけ自給力を高められるのかを研究すべき。地域ごとにコストダウン策、付加価値向上策、農商工連携などをそれぞれ展開するなど、自給力を高める方策の検討を」といった意見や、「数字に一喜一憂するのではなく本当の自給力をつける対策を」との意見もあった。ただし、「自給力」では国民に分かりやすく定義できないとの指摘も出ている。
水田のフル活用も今後の議論の焦点のひとつとなる。当然、自給率、自給力向上の鍵を握るテーマで「中山間地域では転作には限界。米粉、飼料用米を積極的につくっていきたい。にも関わらず未だに支援策の詳細が伝わってこない。もう現場は米づくりの準備をしている」との指摘があり、現場での期待の高さを伺わせた。ただ、この問題に関しては米の生産調整政策を見直していくべきだとの議論も出た。「需給バランスを取るには有効だったが、耕作放棄地が増え後継者も減った。これでよかったのか、抜本的に見直して米を作らせない政策ではなく(多様な用途に向けた)販売に知恵を絞る方向に展開すべき」、「ものを作ることによって収入が得られる施策を」などの意見もあった。
そのほか、経済状況の悪化で就農希望者が増えているという実態を報告し新規就農への支援策が急務であること、同時に生産法人などへの雇用者に対する支援も必要だとの指摘もあった。
また、後継者問題では「農村で子どもが親と同居できる状況をつくらないと農業が伝承されない」との声も。人が住まなくなれば農業もなくなるとの危機感からの指摘で「同居すれば親の農業を真似ていく」として「兼業農家のあり方も議論すべきではないか」との問題提起もあった。
◆消費者への理解、啓発も
一方、国民的な議論が必要だとしながら、これまで消費者対策に力を入れてきたのかと問う声も。「安心・安全で高品質のものを安く買えると思っているのが多くの国民の実態では。飢餓人口が増えているといっても国内では100万トンも廃棄している。世界の食料状況をもっと考えてもらうことに力を入れないと国民的な議論にならない」。「米粉の普及などには、日本で育つ農産物を食べる、という消費構造に変える努力も必要」、「農業の多面的機能を数値で示し、消費者との連携を」などの声があった。
JA全中の茂木守会長は企画部会の委員。
食料をめぐる世界的な変化をしっかり認識し、規制緩和や市場原理だけで政策を検討すべきではないと強調、(1)農業生産額の拡大に向けた目標提示と政策の確立、(2)国産農畜産物の増産と食料自給率の向上、(3)国際化の進展をふまえた経営安定対策と品目別対策の確立、(4)新たな農産物ルールの確立、が必要だと主張した。
水田フル活用のイメージ |
◆どうなる? 6大臣会合との関係
基本計画の見直しを表明した昨年末には「一年かけて徹底的に議論する」(石破農相)という方針で、実際に審議会としては来年の3月を「出口」として議論を進める。
一方、この日に設置された関係6閣僚による農政改革会合は今後、月2回のペースで集中的に会合を開き3月にも一定の方向をまとめる予定。石破農相は「農政改革には非常に広範な課題がある」ことから「内閣の最重要課題として政府挙げてこれに取り組むとこと」と強調、検討項目については今後の会合で決まるとし「農地制度」、「経営対策」、「水田の有効活用対策」、「農村振興策」、「食の安全と消費者の信頼確保」などを挙げる。
ただ、来年度予算や法制度化をにらみ、優先的に取り組まなければならない政策課題を集中的に扱うという見通しもある。一定の分野について改革の方向性が示されれば審議会の議論にも反映されるとしている。
鈴木部会長は関係閣僚会合の特命チームの有識者メンバーにも就任。「うまく相互作用し連携がとれればいい。現場の状況を考えれば施策の見直しを急いだほうがいいものもある。そうした部分については企画部会でも迅速に議論することにもなるかもしれない」と話しており、関係閣僚会合の議論も注視していかなければならない。
●新たな基本計画の検討項目案概要 |