◆経済連・県本部と肩並べ第4位の実績
「紀の里は、旬の果物を周年供給できる産地です」。そして「旬のものを売りながら、次の旬のものの予約を取っています」と、JA紀の里でJAタウンを担当する販売部販売課の永山聖也さん。
JA紀の里は、農産物直売所「めっけもん広場」で全国的に有名で、果物、野菜、花きの産地として知られている。JAタウンも当初はめっけもん広場が担当していたが、ダイレクトメール販売や取引先との直接販売など市場外流通の1分野として位置づけられ17年から販売課(昨年度までは特販課)が担当することになり、順調に販売高を伸ばしてきている。
20年度のJAタウン出店ショップの実績をみると、年間1000万円以上が87店中15店(全店の17%)あるが、JA(単協)は第4位のJA紀の里「紀の里“旬”だより」と第14位にランクされたJA岡山西「星の郷特産館」の2つだけだ。
この2JA以外は、トップが全農長野、次いで愛知経済連、全農ちばと続き、5位がホクレンというように経済連・全農県本部が占めている。つまり、加工品を含めて県内の農畜産物を集め、年間を通してさまざまな商品を提供できる県単位のショップの販売実績がよいということだ。
◆商品づくりと早め早めの情報提供
そうした中でJA紀の里が2300万円近く販売できたのはなぜなのだろうか。ちなみに全農長野は4300万円強、愛知経済連、全農千葉は2300万円強の実績だった。
一つは、冒頭で永山さんが語ったように、あるいは中村慎司紀の川市長が「バナナとパイナップル以外は何でも採れる」というように、旬のものを周年供給できる「果物王国」だということがある。
しかし、それだけではない。それは、消費者のニーズを読み取った商品づくりとクレーム対応を含めたサービスのよさ、そしてメールマガジンなどを活用して、常に早め早めに商品情報を伝え購買意欲を喚起しているからだ。
そして、生産者が努力して味の良い高品質な果物を生産していることがあげられる。これらが相まってリピーターが多いこともここの特徴ではないだろうか。
(写真)最新鋭の設備をもつ流通センターで選別包装出荷される
◆6月に南高梅中心に1100万円を販売
今年6月、JA紀の里のショップは、単月で昨年の年間販売高の5割近い1100万円の販売実績をあげた。その主力商品は「南高梅」で900万円販売した。梅は、梅酒や梅ジュース、そして梅干と加工用途が広いが、梅干用には、柔らかな出来上がりを可能にする樹上で完熟させた「木熟南高梅」の取り組みを増やしている。
さらに、梅酒や梅ジュース(青梅)用では、家庭でつくるための容器や梅以外の材料をセットにした「梅酒セット」「梅ジュースセット」の販売もし、大変に好評だった。
梅の販売期間(収穫して消費者に届ける)は10日間前後と短い。だから収穫時期が迫ってから注文をとりだしたのでは遅い。JAタウンでは出荷予定日を設定し前広に予約注文を受け付けつけることも可能なので、遅くとも1カ月前にはJAタウンでの予約を開始するようにしているという。
◆メルマの活用で購買意欲を喚起
それと同時にメールマガジン「紀の里“旬”たより通信」が、JAタウン登録会員に向けて発信される。メルマは最低でも週に1回は発信する。また、早期予約注文には「早割」制度も導入したり、品種の変わり目に情報を提供することで購買意欲を喚起している。
例えば桃は、西日本最大の産地で、毎年6月中旬から全国に先駆けて収穫が始り、8月中旬まで2カ月出荷される。それができるのは早生種・日川、中生種・白鳳、清水白桃、晩生種の嶺鳳、川中島白桃などの品種が栽培されているからだ。
収穫される桃の品種が変わることをメルマで案内することで、早生種を購入者が「美味しかったので…」と7月下旬から8月上旬の品種を注文し「もう一度、穫れたての旬の桃を味わってもらう」。メルマの活用で2カ月収穫できる産地の特徴を活かしているわけだ。
商品づくりでは、桃と梨を3個ずつ詰め合わせた「まごころ旬果」がある。家族が少ないので「桃も梨も食べたいが1箱ずつでは量が多すぎる」という消費者のニーズに応えた商品で、好評を得ている。
◆生産者の努力に応える工夫も
和歌山県は柿の生産量日本一の県だが、紀の里では温暖な気候を活かして9月中旬から出荷している。さらにここには管内の選抜した園地で育て、その中から厳選した紀の川柿「黒あま」という高級品がある。樹になっている柿のなかでも特に太陽をいっぱい浴びる柿を選び、一つひとつ丁寧に袋かけをするなど、生産者の努力の結晶ともいえる柿だ。
また最近、作付が拡大しているのがいちじくだ。県単位では愛知県が日本一だというが、個別産地としては、紀の里がある紀の川市が全国一だ。なぜ増えているかというと、低木栽培をしているので、高齢者でも作業がしやすいからだと永山さん。
冬場にかけてのかんきつ類など、生産者が努力して生産した美味しい旬な果物をJAタウンで販売しているわけだが、今後の課題はの問いに永山さんは、「加工品が少ない」ことだという。ジャムやジュースなどの加工に手をかけだしたところだが、これを拡大することで、いままで自家消費されたり廃棄されていた規格外のものが活かされ、組合員の所得向上になるからだ。
JA紀の里では、JAタウンを活用して、市場経由では難しい収穫した翌日に消費者の手に新鮮な旬な農産物を届けることを実現している(離島などへは数日かかる所もある)。そのことでJA紀の里の農産物は「穫れたての旬なもの」というイメージをつくることが永山さんたちの仕事だ。そしてそれがブランド化につながっていくと考えている。
◆100ショップ7億円をめざして
いまJAタウンのショップ数は88だ。全農大消費地販売推進部の沢登幸徳JAタウン推進室長は、「今年度中に100ショップにし、計画の7億円を実現したい」と考えている。
JA紀の里は5月を除けばほぼ1年中なんらかの商品があるが、いままでみてきたようにそれだけで「売れているわけではない」。生産者との連携や消費者のニーズに応えた商品づくりや購買意欲を喚起するメルマなどの工夫がある。5名へのプレゼントに2万人もの応募があるというプレゼントも認知度を上げるには効果がある。
生鮮では年間供給は難しいJAでも、加工品など工夫することでアイテム数を増やすことができるし、工夫次第でJAタウンは可能性を秘め、まだまだ伸びていくマーケットだといえる。これを活用しない手はないのではないだろうか。