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直売所販売管理システム「豊年万作くん」  JAおきなわ現地ルポ

的確な情報提供で生産者にも店にも喜ばれる

 いまファーマーズ・マーケット(FM)が注目されている。その運営や経営そして生産者を支えるシステムとして注目されているのが「豊年万作くん」だ。現場の意見を聞いてバージョンアップするなど系統らしいシステムとして評価されているが、JAおきなわにその実際を取材した。

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(写真)毎月7万人以上が来店(レジ通過)する「うまんちゅ市場」

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◆便利になったと喜ぶ生産者

携帯メールに送られる売上情報に応じて商品を補充する生産者(左) 「とっても便利になったよ。携帯にメールでいくつ売れているかが、1日に4回も送られてくるからね」。
 昨年の秋までは、1日に何回かどれだけ売れているのか確認するために、店に見に来ていた。「車で10分かそこいらだが煩わしかった」。それがいまでは、送られてくるメールで確認して補充が必要だと判断したら持っていけばよくなり、無駄な動きせず、効率的に仕事ができるようになったと喜ぶ。
 ここは沖縄本島の南部・糸満市にあるJAおきなわのファーマーズマーケットいとまん「うまんちゅ市場」。
 このFMで野菜や果物を販売している生産者に、リアルタイムの販売データを届けているのは、JA全農肥料農薬部資材店舗推進室が普及推進している産地直売所向けパッケージ・統合型POS販売管理システムの「豊年万作くん」だ。
 このシステムは、タッチパネル式で直感的に分かりやすいオペレーションができる店舗のPOSレジ、産直品と加工品の2種類のバーコードラベルを生産者自身がタッチパネルを操作することで発行できるラベル管理、そして売上管理は日次・月次にできるのは当然だが、出荷者別・商品別に集計される。また、時間帯別とか複数あるレジごとの集計もできるなど多彩な機能をもっている。

(写真)携帯メールに送られる売上情報に応じて商品を補充する生産者(左)


◆店にとっても「素晴らしいシステムだ」

生産者が自分で簡単にバーコードラベルを発行 そうした機能の一つとしてメール配信システムや出荷者情報サービスシステム(いずれもオプション)がある。
 生産者が商品を店に持ち込むときにその数量を店ではチェックしない。生産者が自らバックヤードでラベルを発行し陳列する。そしてレジを通過したものが売上げとして計上される。一定の時間内にレジ通過した数が生産者にメール配信される。レジ通過がないとき(売上げゼロ)は配信されない。
 バーコードラベルの発行も簡単だ。自分のIDを入力し、あらかじめ登録してあった商品名(ヘチマとかゴーヤとか)を選択し、価格を変えるなら新たな価格を入力し、必要な枚数(商品数)を指定すればいい。
 このシステムは店にとっても「素晴らしいシステム」だと「うまんちゅ市場」の山城英則店長。実は20年秋までここでは別のシステムを使っていた。しかし、19年にオープンした中部FMでこのシステムを導入し高い評価をえたので、20年秋に既存FM3店と20年にオープンした女性部の店舗・菜々色畑のシステムも「豊年万作くん」に統一した。

(写真)生産者が自分で簡単にバーコードラベルを発行


◆専業農家にとっても「ありがたい」FM

島野菜など珍しい野菜も魅力だ 糸満の「うまんちゅ市場」は平成14年11月のオープンだが、その当時、直売所の生産者会員は280名だった。その後、売上げも会員も増え、現在の会員は1050名で常時出荷者は600名前後。売上げも18年度約6億4000万円、19年度8億1182万円、そして20年度は10億515万円大きく伸びている。
 店でヘチマを並べていた専業の女性生産者は「市場を中心に出荷している。いままでは規格外は自家用にするもの以外は捨てていたけれど、ここではそれが売れる」「値段は安くても収入になるので、ありがたい店」だと語る。そして「いつも規格外だけではないよ。感謝を込めてA品をだすこともあるよ」とも。
 兼業農家だけではなく、専業農家にも喜ばれているということだ。山城店長は「それがJAのFMの役割」だから当然だという。
 店内にはトマトやキュウリなどの定番のほかに、最近は東京などでもおなじみになったゴーヤをはじめヘチマなど沖縄独得の野菜や、島ニンジン、島らっきょうのように「島」が付く「島野菜」など種類が豊富だ。バナナやパイナップル、マンゴー、ドラゴンフルーツなど果物類も多彩だ。
 毎年開催されている「うまんちゅ市場 生産者大会」の表彰者をみると「農産物多種品目出荷者」(年間を通して出荷品目の多い人)のトップは57品目、2位が53品目だ。そしてトップの伊敷良子さんは、「農産物年間最多出荷日数」でも360日とトップ(もう一人同じ日数の人がいる)の表彰を受けている。

(写真)島野菜など珍しい野菜も魅力だ


◆個人別・商品別・時間帯別データがワンクリックで

 糸満は沖縄県内でもトップの野菜生産量あるだけではなく、「珍しい野菜も多い」ことから、日曜や休日には市外からの来店客が5割近くを占め、しかもリピータが増え、「楽しみながら買い物」をしているという。今年度になった毎月確実に7万人以上が来店し、ほぼ1億円の売上げを維持している。7万人はレジ通過人数だから、家族連れも多いので、店に入った人数は月間10万人は超えていると想像できる。
 加工品を加えれば相当なアイテム数になる。その管理はいままでは大変だったと山城店長。いまは、個人別・品目別・時間帯別に「ワンクリック」でデータ集計ができる。だから売れ行きが良い商品については、店側から生産者にメールで事前に追加を要請することもある。従来は、手書きでまとめていたのでそういうことはほとんどできない状態だった。だからこの豊年万作くんは「すばらしいシステム」なのだ。


◆複数店舗のデータをリアルタイムに把握

品揃え豊富な「うまんちゅ市場」 そして恩恵に預かっているのは、生産者とFMだけではない。それはFMを統括する本店の農業事業本部農業統括部FM推進室(以下、本部)だ。
 従来は各店舗のデータをFAXなどで集め、本部で集約していた。ところが昨年秋に全店舗に豊年万作くんを導入し、本部で全店舗のデータをリアルタイムで確認できるようにしたので、各店舗の客数・売上げ・平均客単価・品目別数量と金額、そして各店のレジごとのデータも、1時間単位で分かるようにした。さらに、各店舗の動向の問い合わせが、店舗から本部にくるので、「各店舗から他店舗のデータも見れる」ようにしたと本部の嘉数尚和さん。
 複数店舗のデータを月次や日次だけではなく、リアルタイムに本部で確認できるため、的確な援助や指導が可能になり、全体としてのモチベーションも高くなり実績を伸ばしているのがJAおきなわだといえる。
 このシステムを中部だけに導入した19年度のFMの実績は16億3000万円だった。店舗数が増えたこともあるが20年度は29億2200万円となり計画比134.5%の伸びを見せた。そして21年度は全体で35億円を計画しその実現をめざしている。
 さらに、22年度には読谷と八重山に新規出店する予定だと本部の山城隆則室長。システムはもちろん「豊年万作くん」だ。


◆JAの枠を超えて活用する石川県

 このシステムをもっとも有効に活用できる複数店舗活用の実例をJAおきなわにみてきたが、石川県の複数のJAでは、統一したマスターコードを使用してこのシステムを活用することで、JAの枠を超えて、他JAのFMに出荷することを可能にしている。
 そのことで、消費者に県内産の農産物を味わってもらうことができるし、生産者にとっては自JA内だけではなくFMで販売し収入をえることが可能になったということだ。
 生産者コードや商品コードが統一されればそういうことも「豊年万作くん」ではできるということだ。
 いま改めてFMが注目を集めている。そしてそこでは生産者にも消費者にもそして店の担当者にとっても優しい管理システムが求められている。
 近々、消費者向けのメール配信が新機能としてバージョンアップする。
 全農では、さまざまな可能性をもったこのシステムが全国の多くのFMで活躍できるようになればと期待している。

 

(2009.10.30)