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リンガーハット―全野菜国産化でデフレ下の競争を乗り切る

・オランダサヤエンドウの食感を活かす
・おいしさとシャキシャキ感を大事に
・生産者との信頼関係が支えに
・厚労省推奨を上回る「野菜たっぷり」もメニューに
・値上げしても消費者は国産を支持

 「長崎ちゃんぽん」をメインに、九州や首都圏を中心にチェーン展開する(株)リンガーハットは昨年10月1日から、全店のすべてのメニューで使う野菜をすべて国産化し、価格を値上げしたにもかかわらず好評を得ている。なぜ全野菜を国産化しようと考えたのか。そしてどのように国産化を成功させたのかを、武谷真太郎マーチャンダイジング部購買担当部長に聞いた。

◆オランダサヤエンドウの食感を活かす


絹サヤより倍くらい大きいオランダサヤエンドウのほ場 長さが12〜13cm、幅3cm前後と絹サヤの倍ほどの大きさの「オランダサヤエンドウ」をご存知だろうか。このあまり知られていない野菜が、リンガーハットの主要メニューで使う7種類の定番野菜の一つになっている。
 20年以上前にはそれなりに作っていた人がいたようだが、同社が定番野菜に決めた2008年当時、市場には、和歌山を中心に年間50tしか出ていなかった。
 しかし同社が必要とする量は、年間で200t。ロスなどを見込めば原料としては220t欲しいところだ。これをどう確保するのか。「今回の取り組みで一番苦労しました」という武谷部長たちの奮闘がはじまる。
 和歌山では冬場はハウスで春先から露地と作型を変えて11月から4、5月までは出荷されるが、気温が高くなるとうまく生育しないということで、夏場はつくられていない。
 夏場から秋口に作れるところはないかと、以前からキャベツで契約している生産者や仲卸など取引先を通じての模索がはじまる。東北でも「作ってもらいましたが、なかなかうまくいかない」など苦労のすえ、農業法人で空いている時期にと手を上げてくれるところがあったりして、いまは全国で20数カ所で生産してもらっている。
 だが「もともと量が少ない」ことと夏場に弱いので、そのときの代替は考えておかなければならない。今年の夏場は空心菜を代替野菜として予定している。
 なぜリンガーハットはオランダサヤエンドウにこだわったのか。

(写真)絹サヤより倍くらい大きいオランダサヤエンドウのほ場

 

◆おいしさとシャキシャキ感を大事に


 世界的な不況とデフレで外食産業も大きな影響を受けていたが、リンガーハットもその例外ではなかった。不採算店舗の閉鎖などさまざまな措置が取られるなかで、その苦境を打開するために打ち出されたのが「全野菜国産化」だった。
 中国産冷凍餃子事件などによって、消費者の食の安全・安心への関心が強かったこと。女性の健康志向の高まりなど、国産野菜へのニーズが強くなっていたので、その消費者ニーズに応えた「全野菜国産化」が計画された。
厚労省推奨量を大幅に上回る「野菜たっぷりちゃんぽん」 当時、メインである「ちゃんぽん」に使われていた野菜7品目のうち国産は全量契約栽培のキャベツと同社が自社栽培しているモヤシだけで、あとの5品目は中国などで加工し冷凍したものを輸入していた。
 冷凍では「野菜のシャキシャキ感とかおいしさを感じてもらうことが難しい」ことも国産化へ踏み切らせた要因の一つだ。
 おいしさとシャキシャキ感、色合い、スープとの相性など「ちゃんぽん」に合う野菜を選定するために、社内で「50品目以上試食」した結果、キャベツ、モヤシ、ニンジン、コーン、タマネギ、そして従来のキクラゲに変えて青ネギ、絹サヤに変えてオランダサヤエンドウの7つが年間定番野菜に決まる。
 この定番野菜は、「ちゃんぽん」だけでなく皿うどんなど定番のメニューでも使用される。定番メニューのほかに夏や冬の季節メニューもあり、冬ならハクサイを使ったりするが、それも含めてすべての野菜が国産品となった。

(写真)厚労省推奨量を大幅に上回る「野菜たっぷりちゃんぽん」

 

◆生産者との信頼関係が支えに


フレッシュな野菜を届ける加工ライン オランダサヤエンドウと同じように苦労したのが冷凍品を輸入していたコーンの国産化だ。コーンは収穫時期が限られているので、通年使用するには冷凍品となるが、「粒にして冷凍する加工工場は北海道にしかない」。
 同社が使用するコーンは年間6000t前後が流通しているが、ほとんど行き先が決まっていて、年間400t欲しといっても「いきなりその数量をいわれてもない」といわれ、やっと200tが確保できたという。
 そしてコストを抑えるために同社では、富士山の麓と佐賀にある自社の加工工場をより充実した。加工が必要な野菜はこの工場に納入され、店で使うサイズにカットなどされて、店舗へ配送されている。
 コーンのように収穫時期が決まっているものは別にして「できるだけフレッシュなもの」をと考えると、それぞれ産地をリレーしていくことになる。
 だが、今年の春先は天候不順で全国的にキャベツがなくなり「頭が痛かった」が、「産地が優先的に出してくれて、本当に嬉しかった」と武谷部長。キャベツは25年前から契約栽培し、市場がどんなに安くなっても契約価格で買ってきたこと。播種・収穫前・収穫後など、時期をみて産地を訪ね生産者とコミュニケーションを深め、信頼関係を築いてきたからだ。

(写真)フレッシュな野菜を届ける加工ライン

 


◆厚労省推奨を上回る「野菜たっぷり」もメニューに


キャベツ畑 こうした苦労を重ねたものを含めて、いま定番野菜の年間使用数量は、キャベツが6000tで、産地は北海道から九州まで25産地。一番多いのは熊本だ。なぜなら平場から阿蘇の中腹までで生産しているので「年間通してほとんど取れる」(武谷部長)からだ。
 モヤシは自社栽培で4000t。キャベツとモヤシで1万tということになる。そしてタマネギは兵庫・北海道・長崎から1000t。ニンジンが400t、青ネギも400t、コーンが200tにオランダサヤエンドウが200t、合計で1万2200tとなる。実際には歩留まりをみてこれに1割くらい上乗せしている。
 しかし、コストは輸入よりも高い。さまざまにコストの抑制をしたうえで、地域によって違いはあるが、メインの「長崎ちゃんぽん」について40〜100円値上げした。ただし、野菜の量は1人前232gを255gに増量。そして国産化の象徴的商品として厚労省推奨の1日野菜摂取量350gを上回る480gを使用した「野菜たっぷりちゃんぽん」をメニューに加えた。

(写真)キャベツ畑

 


◆値上げしても消費者は国産を支持

 

リンガーハット店舗外観 09年4月から一部店舗で、09年10月から全店舗で全野菜国産化をスタート。さらに09年4月からは餃子の皮に20%国産米粉をブレンド、今年1月からはちゃんぽん麺類の小麦を100%国産にするなど、国産化比率を高める努力を続けている。
 外食チェーンの熾烈な値下げ競争下であえて値上げに踏み切ったわけだが、結果は好評で、売上げは好調だ。
 消費者は国産化すれば高くなることを知っているので、40〜100円の値上げはリーズナブルだと判断したということだろう。しかも、しっかりと吟味し、野菜のおいしさやシャキシャキ感が大切にされていることも伝わったからだ。
 きちんとしたコンセプトをもてば、国産が販売戦略の武器になることをリンガーハットは証明した。こうした消費サイドの流れに期待するだけではなく、これにどう学び、活かしていくのか、産地も考える必要があるのではないだろうか。

(写真)リンガーハット店舗外観

(2010.08.06)