◆あの新潟コシがリーズナブルな価格帯に
22年産米が大暴落したことで、いままでとは違う米の動きが起きた、という話が、共通して聞かれた。「大暴落」の原因についての話の前にそれを紹介する。
図1は、21年産米の主要銘柄の相対価格(9月〜1月)の推移に、22年産米の新潟一般コシ(以下、新潟コシ)の相対価格を重ねたものだ。これを見ると22年産新潟コシは、21年産富山コシより660円安く、同宮城ひとめや、秋田あきたこまちとほぼ同価格でスタートしていることが分かる。つまり、米価のリーダーともいえる新潟コシが、「ひとめやこまちの価格帯にまで降りてきた」というのが、22年産米米価の特徴だといえる。
もちろん、表1のように宮城ひとめや秋田あきたこまちの22産米は21産米より2500円前後下がっているのだが、「あの新潟コシが、いままでのひとめやこまちの価格帯で売れる」ことになったことが大きいのだと(株)神明米穀本部の藤尾益造副本部長は強調する。
米卸もそうだが、量販店も、米価が下がったからということで、安い米だけを売っていたのでは「売上げが確保できない」。一方、消費者は安値志向が強いというが、家計調査などをみると「食費」に使う金額はほぼ固定化されている。お米についていえば、10kg3000円強の価格帯の米を購入している人は、銘柄に関係なくその価格帯のお米を購入する傾向にあるという。
今年はその価格帯でいつもはなかなか手が出せない「あの新潟コシが買える」ということになった。そして新潟コシが不足気味になると富山コシや関東コシにシフトし、年明けには「コシヒカリに対する不足感」が出てきた。そしてコシヒカリの代替として「出遅れていたあきたこまちやひとめぼれが引き上げられている」と神明の藤尾さん。
木徳神糧(株)米穀事業本部の三澤正博副本部長は、すでに「あきたこまちも不足し、ひとめや山形はえぬきが上がる傾向にある」という。
「いままでB銘柄を使っていた業務用」でも、コシヒカリが安くなったので使われている。そういえば記者の自宅近所のお握り屋でも「こしひかり使用」(何県産かは不明)と大書きして張り出したら売上げがあがったという。それだけ消費者にとって「コシヒカリ」というブランドは、インパクトがあるということなのだろう。
ある米卸の幹部は「コシヒカリに替わるヒーローが出てくれないと活気がでない」といっていたが、良くも悪くも新潟コシが、現在の米価を牽引しているということが、いっそう明確になったともいえる。
◆大きな需給ギャップに政府の対策なし
こうした現象を生んだ22年産米の大暴落はなぜ起きたのか。
図2は、18年産米から22産米について、農水省が公表している米の「相対価格全銘柄平均」の月別推移を表したものだ。また、表1は主要8銘柄の20年〜22年産米の月別相対価格をまとめたものだ。
この図2をみて誰にでもすぐに分かることは、22年産米の価格が飛び抜けて安いことで、「米価 大暴落」という表現が、けして大げさなものではないことだ。表1で主要銘柄別にみても、21産米と比べて22年産米は、新潟コシは1100円台のマイナスだが、他の銘柄は月によって多少の違いはあるが、2500円前後から3000円の下落となっている。
この「大暴落」が起きた最大の原因は、今回、取材した米卸の人たちによれば、「需給バランス(需給ギャップ)」だ。22年8月から9月ころの需給見通しは、21年産米の持ち越しが35万tとなる見込みの上に、22年産米の過剰作付と豊作だとの情報から、合計で60〜80万tの需給ギャップが生じる可能性が高いと予測されていた。
これに対してJAグループでは、9月2日のJA全中理事会で「過剰米を主食市場から隔離することを柱とする政府の緊急的な需給調整対策」を早期に実施することを求めた。
しかし、9月7日の参議院農林水産委員会で、当時の山田農水大臣が山田俊男議員への質問に「過剰米対策は一切やらないとはっきり申し上げる」と答弁する。もし産地が持ち越してもそれは「自己責任」というなど、政府が過剰対策を行わないと明確に意思表示していたため、供給過剰になるとマーケットは判断した。
さらに米消費そのものが減退するなかで、デフレなど景気低迷の影響で消費者の「安値志向」が強まっていることも背景にはあったといえる。
◆「米価下落恐怖心」から売り急いだ産地も
そうしたなかで、概算金(仮渡金)を1万円以下/60kgに設定する県もあり、「米価は下がる」というのが大方の予測だった。だがそれは21年産に比べて「500円〜1000円程度で、2000円以上も下がるとは想定外だった」と(株)ミツハシの三橋美幸社長は語るが、これは多くの関係者に共通した実感だったのではないだろうか。
米流通に精通しているある専門家は「ここ数年、供給過剰にあるので強権発動をしないとバランスがとれない状態にあり、JAグループは国の介入を求めてきた。が、それがムリ」だとなり、産地には「米価下落の恐怖心」が強くあるという。
それを裏付けるように「生産者団体が在庫として持ち越したときの恐怖心」から、売り急いだ面もあると、責任の一端は生産者団体側にもあると指摘する米卸もある。
これをまとめると、22年産米がスタートする時点では、21年産米の持越しを含めて60万t以上の需給ギャップがあると予測されていた。しかし政府は需給調整するような対策をこの時点ではとらなかった。そのため米価は「安くなる」と誰もが考え、JAによっては概算金を1万円以下に設定するところもあり、「持ち越さないための努力」がされ、21年産米に比べると大幅に価格が暴落したといえる。
◆23年産米は「やや高め」と予想
政府は昨年末になって、政府買上げ18万tなどの方針を出すが、「時すでに遅し」で、米価を底上げする力とはならなかった。しかし、集荷円滑対策の活用もあって、22年産米の23年産米への持ち越しは「10万t程度」ではないかと、多くの米卸はみている。22年産米のこれからの価格についても、ほぼ今の水準で推移するのでは、というのが大方の見方だといえる。
そのうえで23年産米の見通しについて、関東のある米卸のトップは「需要量は802万tと予測されているが、実感としては800万tを切っている」のではないかと見ており、生産数量目標の795万tは「いい線」だが、「おそらく過剰作付けが3万ha程度はある」だろうから「やや供給過剰」とはなるだろう。しかし「22年産米は産地が弱気過ぎた」面もあるので、「23年産米は100円玉何枚かは上がる」と予測している。
他の米卸も同様の見通しで、木徳神糧の三澤さんは「強含み」になると予測。神明の藤尾さんも「政府の政策が効果を発揮すれば需給バランスがとれ、そこそこ上がる」とみている。
◆精米歩留まりが悪い22年産米
22年産米に話を戻すと、品質面では「精米の歩留まりが1ポイントくらい悪い」という指摘が多かった。
大雑把にみて800万tの1ポイント・8万tが実際には消えたことになる。1等米比率が低いこともあり、色彩選別などに時間がかかり、「精米コストがアップした」(三橋社長)という話もある。
米価が下落傾向にあるなかでは、中小の米卸のなかには「年間固定の相対価格では、経営的にリスクが大きい」ので「怖くて手が出せず」、スーパーなどのバイヤーが要求する米を「当用買い」するしかないところもあり、流通業界にも大きなダメージを与えたのではないかという人もいる。
中堅クラス以上の米卸でも「相対契約のあり方」について見直す必要があるのでは、という指摘をするところもあった。
◆産地と流通が一緒になって売る努力を
一方では、22年産米では「規格外」の米が大量に発生した産地もあったが、埼玉県のように行政や生協が連携し、そうした米を販売(安価に)したケースもある。「きちんと情報を消費者に伝えれば支持されることが分かった」との指摘もあった。そのことから「地産地消の効果」を知ることができたとも。
今後のことについて、神明の藤尾さんは、米のトレサ法が施行され加工用米でも国産志向が強くなるから、加工用米にもっと力をいれたらどうかという。また、小麦価格が値上がりするなかで、「小麦代替として米粉の需要をどう拡大」するかも課題ではないかと木徳神糧の三澤さんは指摘する。
ミツハシの三橋社長は、産地を含めたこれからの米業界のあり方として、「生産者が再生産でき、卸など流通業が再投資できる」ように、「産地も流通も一緒になって、どうやってコストを下げ、売っていく」かを考える時期にきているのではないかという。
(図・表は全て農水省公表データより作成)