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パルシステムの「媒体改革」  多様化する消費者像にどう対応するのか

・生活者のライフステージに合わせた3媒体
・テレビCM効果もあって「大衆化」を促進
・画一的には捉えきれなくなってきた消費者像
・会社はリタイアしたが活力ある団塊の世代
・2媒体土台にオプションで個別対応
・これからの試金石として注目

 いまや生協事業を支える大きな柱である個配事業を開発するなど、生協の中でも独自の路線を歩んできたパルシステム生協連で、いま大きな変化が起きている。それはこのパルシステムを支えてきた3媒体戦略の変更という「媒体改革」だ。
 なぜいま「媒体改革」なのかを、パルシステム商品本部の栗田典子副本部長に取材した。

◆生活者のライフステージに合わせた3媒体


 パルシステムは、2001年6月に、20代後半の若い夫婦とはじめての赤ちゃんがいる家族に向けた「yumyum」(ヤムヤム)、育ち盛りの子ども中心の慌しい毎日をおくるファミリー層向けの「my kitchen」(マイ・キッチン)、子育てを終え自分たちの楽しみを追求する夫婦向け「kinari」(きなり)の3媒体体制をスタートする。
 団塊の世代の一回り上の1930年代後半生まれである「第一次専業主婦層」が、高度成長経済の負の面である公害問題、急速に普及した合成洗剤に対して安全性の確認された石鹸とか、食品の安全性を求めて70年代の生協の形成に影響を与え、共同購入が大きな運動になる。この世代が80年代に入り子育てを終了したことで共同購入が頭打ちになり、生協の事業が転換を迫られてくる。
 そうしたなか90年に個人宅配(個配)事業がパルシステムの前身である生協で開発され、「個配を伸ばすことで、育ち盛りの子どもがいるファミリーだけでなく、出産したての若年層が入りやすくなり、組合員の幅が広がる」(栗田典子商品本部副本部長)。
 96年には個配専用の「パルマート」というカタログを作り、この媒体を通じて、単に商品を並べるだけではなく、「生活者の目線に立って商品の使い方やレシピを盛り込んだ編集スタイルを確立」する。そして、冒頭に紹介した組合員のライフステージに合わせた3媒体がスタートする。

 

◆テレビCM効果もあって「大衆化」を促進


 3媒体導入の最初の5年間は、新しいコンセプトの「yumyum」と「kinari」が牽引して「毎年、高い水準で受注人数が増加」。「yumyum」は赤ちゃんができたばかりの世帯にいち早くアプローチすることで新規加入を牽引。「kinari」は子育てが終わった層の「my kitchen」からの移行もあったが、他生協からの流入やいままで生協に縁がなかった層の加入も促進し、高い伸張率をキープしたという。
 03年には全配送トラックに牛のキャラクター「こくせんくん」を配すると同時に、ばらばらだった各地域のロゴを統一。さらに05年からテレビCMを放映開始し、生協に関心がなかった層の加入が増える「大衆化」が進む。
 ところが08年以降この傾向が停滞する。とくに3媒体体制導入以降受注人数伸張を牽引してきた「yumyum」の受注人数が09年には前年比ほぼ100%になり、10年には前年を割り込んだ。その反面、「kinari」の受注人数は「いまだに高い伸びをみせている」。
 このことが今回「媒体改革」を進めることになった直接の原因だと栗田さんはいう。

 

◆画一的には捉えきれなくなってきた消費者像


 図は、09年2月と10年12月の3媒体別年齢構成を表したものだ。わずか22カ月の経過なのにいずれの媒体もピークが右(年齢が高い方)へシフトしている。
 さらに「yumyum」と「my kitchen」がともに「30代後半の団塊ジュニアがボリュームゾーンを形成」している。当初想定していた前者が後者より「若い」とはいえなくなり「画一的には捉えきれなくなってきた」。
 この層は「きわめてシンプルかつ節約志向」が強く、百貨店よりはお手ごろ価格で買える小売店を利用したり、「ママ友とのランチも高級フレンチではなく、自宅に招いて手料理を持ち寄る」など、新しい消費スタイルを作ってきた世代だといえる。そして「節約をするだけではなく、子どものためにはお金を出し惜しみしない」など「賢い消費者」としての面ももっている。
 さらにかつての「20代後半で結婚して子どもが2人の4人家族。終身雇用で教育から家や車を購入して」という標準世帯のイメージが崩れていることも背景にはある。
 女性の結婚年齢が高くなり、40歳以上で出産した女性は05年に47年ぶりに2万人を超え、09年には3万人を超えたと厚労省調査は伝えている。
 さらに「経済成長が完全に止まって見通しがたたず、就職も困難になり結婚とか家族を持つということが描きにくくなり、単身層・未婚層や子どもを持たない夫婦が増えている」と栗田さんは指摘する。

 

◆会社はリタイアしたが活力ある団塊の世代


 一方「kinari」の層はどうか。かつて生協の活動を支え、日本の高度経済成長や消費社会のまっただ中でその「豊かさと便利さを享受」、「団地の普及」もあって近所付き合いより「核家族第一世代」として「家族・子どもを重視する」暮らしをおくり「前世代からの継承ではなく、メディアによってもたらされる情報によって育った」団塊の世代が、「会社はリタイアしたけれどまだまだ活力」があり、地域のボランティアに積極的に参加したり、スポーツジムで健康づくりに励んでいたりする。
 10年後には70歳になるが、いまだ気持ちが若く健康的な生活をおくる「とんがった」大人中心の世帯により満足いく商品の充実をどうはかるかが大きなテーマになる。そして子育てを終えた層からのシフトだけではなく、子どものいない「若い夫婦のみの世帯にも応えることも視野に入れる」必要があるという。
 「kinari」では、子育てが終わったあと、あるいは一人の人間としてどう暮らすのかとか、社会性の高い話題を提供しているので、これに共感する若い世代もいるからだ。それは、図をみると「kinari」の利用者は6070代にボリュームゾーンがあるが、3040歳代の利用者が多いことでもわかる。

 

◆2媒体土台にオプションで個別対応


 これまでの3媒体では捉えきれない「いろいろな家庭、子どもがいない家庭、そして会社をリタイヤした年齢の高い層の増加」にどう対応するのか。
 栗田さんは「カタログ情報の代表であるレシピも、組合員の経験や食体験が違うので、同じ肉でもベテランと食べ盛りの子どもがいる家では、ボリューム感や味付けが異なる」ように「同じ商品でも量目・味付けなど、一人ひとりにできるだけふさわしい商品を提供する」つまり媒体を4とか5媒体にし「複数のお店」をもつことが基本ではあるという。
 しかしそれは組織体制や事業コストの面で難しい。そこで考えられたのが、「土台となる媒体」を2つに整理し、そのうえに、たとえば赤ちゃんがいる人には、新「yumyum」をオプション媒体として提供するなど、個々のニーズに対応したオプションを提供することで「結果として個人対応が進んでいる状態」にすということだ。
 このオプションは紙媒体もあるが、ネットの活用も視野に入れている。赤ちゃん向けの「子育て応援サイト」では、登録の際に赤ちゃんの誕生月で登録する。そのことで、予防接種とか離乳食をはじめる時期など基本的な悩みが共通しているので、役立つ情報交換ができる。さらに3カ月早く生まれた子の情報をみることもできるので、先の見通しも立てやすくなるなどが考えられる。
 こうした単なる商品情報を超えた、「深い諸情報の提供」やSNSなどによるコミュニケーションなど、ネットを活用した成功事例を「子育て応援サイト」でつくり、他の層にも展開していくことを考えている。

 

◆これからの試金石として注目


「yumyum」と「my kitchen」を統合した「コトコト」 現在は、「yumyum」と「my kitchen」を統合した「コトコト」をこの9月からスタートし、「kinari」については来年4月から新しい「kinari」としてスタートする準備を進めている。さらにオプション媒体として赤ちゃん向け情報や商品による「yumyum」を必要な人に提供している。
 さらに10月からこれまでそれぞれのカタログで紹介してきた書籍やCD、DVDの新カタログ「Lib.」(リブ)を月1回発行している。
 多様化する消費者とそのニーズということがさまざまな場面で語られることが多い。その多様化した消費者に具体的にどう対応するのか。パルシステムの「媒体改革」はその一つの試金石といえる。まだその緒についたばかりで、走りながら必要な改革を付加していくことになるだろうが注目していきたい。

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(2011.11.14)