「農業の振興」をこれからの課題に
◆生鮮6品の3割が産直に
「全国生協産直調査」は4年ごとに実施され、今回が8回目となるが、今回の調査対象は、日本生協連会員生協のなかから、「おもに事業高上位の40生協と11事業連合から集約し、全体で73生協を網羅」して昨年6〜8月に実施された。
この調査によると、参加生協合計の2010年度の産直事業規模は2756億円で前回の06年度実績(2381億円)より15.8%伸張した。これを生鮮6品(農産・畜産・牛乳・鶏卵・米・水産)に限れば17.8%の伸張となる。
また、参加生協の生鮮6品の事業高9091億円に占める産直の割合は、30.2%となっている。ちなみに食品総供給高に占める割合は14.9%となっている(表1参照)。
(写真)仙台市で開かれた「第28回全国産直研究交流会」
◆飼料用米の65%は生協が使用
前回(06年度)調査と比べて「飛躍的な前進があった」のは、米や稲を畜産に活用する飼料用米や飼料用稲の取り組みだ。
飼料用稲の先駆的な取組としては、鳥取県畜産農協と京都生協による肥育牛への給与があげられる。2000年から始まったこのプロジェクトは「100年先も継続できる畜産」の実現を意識して、水田で飼料用稲を栽培し、飼料の地場での自給を試みるものだ。
そのほかにも、放牧を中心にした自給飼料で生産されている東都生協の「北里八雲牛」や、国産飼料を積極的に活用している生活クラブ生協の「開拓牛・ほうきね牛」など、土地利用型畜産もでてきていることが報告されている。
飼料用米はごく一部で牛にも給餌されているが、主に養豚・養鶏(鶏卵)で使われている。飼料用米を使った「米ぶた」の取組みとして早いのは、生活クラブ生協と平田牧場の「平牧三元豚」があるが、最近は多くの生協でも取組みの実践が開始されている。
「米たまご」も、コープネット、パルシステム、ユーコープ、東都生協、コープあいち、コープしが、京都生協、コープこうべなど、全国各地の生協に急速に広がってきている。
こうした飼料用米、飼料用稲で育てた畜産や鶏卵を取扱っている生協は48生協(調査生協の65.8%)にのぼっている。そして10年度の「生協事業における飼料用米・飼料用稲の使用量」は、2万256トン。そのうち「豚肉のために7891トン(39%)、鶏卵のために7537トン(37%)を使用」した。
農水省によると、09年度の全国の飼料用米作付面積は4192ha、飼料用稲作付面積は1万306haだというから、「生協の産直事業で日本全体の飼料用米の64.8%、飼料用稲の5.4%を使用」したことになると報告されている(表2参照)。
◆大切な資源である水田の活用と保全を
そしてこの「報告書」では、こうした取組みの特徴の一つとして、「飼料用米生産者、飼料メーカー、畜産事業者、食肉事業者、行政等々の有機的なつながりなしにはこの取組みを成功させることはできない」とし、この事業を支える「ネットワークの広がり」の重要さを指摘している。
さらに「フードチェーンの最も川下側に位置する生協がコーディネート機能を担い、稲作農家と畜産生産者と生協組合員の新しい関係を形成する点」にも特徴があるとしているが、正にその通りではないだろうか。
そして最後に、大きな実践的な前進があったとはいえ「飼料用米・飼料用稲を活用していくことには関係者にとってそれぞれ一定のリスクがある」ことも指摘。そのうえで「飼料用米・飼料用稲を通じて自給率を高め、大切な資源である水田を活用し、保全していくことを共通の理念として、生産者団体や行政とも連携しながらネットワークをさらに広げていくことが必要」になっていると指摘した。
◆「安全な食の確保」から「地域コミュニティへの関与」へ
右図は、産直事業において「現在、重視している課題」と「今後、重視すべきであると思う課題」を示したものだ。
これをみると、従来「安全な食の確保」に「集中しがちだった組合員の生協産直への期待」は、「食料自給」「農業・農村」「環境」「地域」へと「新たな広がりをもつようになって」きているし、そうした「組合員の関心の広がりに呼応するかたちで近年の生協産直の幅も広がってきたとみることができる」。
さらに「生協産直の新たなテーマとして、『コミュニティへの関与』(「協同組合のアイデンティティに関するICA声明」第7原則)ということが実践的なテーマとして浮かび上がってきていることも、注目される動向」だと「報告書」は指摘する。
そこには当然、地産地消や地域自給を意図したさまざまなネットワークの構築などの取組みもあるが、「それぞれの地域における生協の世帯加入率が大きく前進」し、例えば宮城県では世帯加入率が70%というように「県民の過半数を超える生協もでてくる」など、「生協が主体的な力をつけてきつつある」ことなどによって、「地域社会になくてはならない組織として認められつつある」(福永代表委員の報告)こと、さらには「生協は『消費者の組織』という言い方に違和感が出てきている」(同)ことなどから「地域社会の生協に対する期待も大きくなってきている」。
そして「地域の豊かな資源と多様な事業者を、生協・生協組合員が参加することによって結びつけ、地域経済活性化につなげる取り組みは、地域の中で資金を循環させるという観点からも注目を集めている」(報告書)。
つまり、その生協のエリア内の世帯加入率が高まるにつれて、生産地である農山漁村での生協組合員比率が高まり、「消費者であるだけなく生産者でもある組合員が多数存在する」ようになり、「コミュニティへの関与」という考え方が「理念的」なものから「現実的」なものとして「見え始めてきている」ということだいう。
福永産直委員会代表委員は「現時点での到達点としては必ずしも『地産地消=産直』ではないが、少なくとも『地産地消≒産直』という段階には近づいてきており、地産地消を生協産直の中身をさらに豊かにしていく可能性の一つとして、積極的に展開していく必要がある」との考え方を示した。
生協の産直交流研究会は今回で28回目を迎えるが、この間、生協産直を巡ってさまざまな問題・課題が生じてきた。それは生産者側の問題だけではなく、生協・消費者側から生じた問題も数多くあった。それらを克服して今日があるといえる。
そして「これまで以上にしなやかに、創造的に、生協産直は進化していかなければなりません。協同組合にしかできないやり方で、東日本大震災からの復興とこの国の食と農の再生に向けた確かな一歩を刻まなければなりません」。「報告書」の「おわり」に述べられている言葉だ。ぜひ、そうあって欲しいという願いを込めて、結びの言葉としたい。
(※図をクリックすると大きく表示します)