組合員による運営、組合員のための組織、組合員の声を丹念に拾う、などは農協が語られるときの言葉だ。
耳触りはいいのだが、農業で生計を立てている私には「農協の組合員ってどこにいるの?」という感じがする。
全国データでみると、
正組合員は480万人
農家戸数は250万戸
販売農家は170万戸
主業農家は34万戸
である。
農業所得が農外所得より多い農家を「主業農家」という。主業農家の割合は、正組合員の7%くらい。総会議決権の1割以下。正組合員の9割以上は農外所得のほうが多い。
販売農家は35%。正組合員の65%は「自給的農家」や「家庭菜園的農家」なのだろうか。利用権設定に拠れば※、まったく農業をしていなくても、正組合員であり続ける。正組合員の半分以上は消費者目線になっているかもしれない。
「組合員による組合員のための農協」というはたやすい。しかし、事業を具体化するとき、どんな組合員が目に浮かぶのだろうか。農協は、農業を生業(なりわい)とする者の協同組合として機能してほしい。
私は組合長を2期6年務めた。3期目は選ばれなかった。このことを「追放された」「追われた」という人もいるが、それは適切ではない。組合員による民主的選択なのだ。農協の進むべき道を選択したのだ。
大切なのは役員のあり方ではなく、組合員のあり方だ。
農協が生まれたときと今日では、組合員の構成が大きく変わった。その使命も大きく変わらなければならない。過去の理念と仕組みを引きずったままでは、存在価値がなくなる。
初志貫徹。理念や目標に向かってくじけることなく努力し続ける。その熱心さと執着心から周囲の状況が見えなくなるときがある。原理原則に対する熱心さには敬意を表するが、その執念には不安を感じる。
人生にも組織にも多くの選択肢がある。能力と目標の整合性を客観的に自覚することが大切だ。知識と経験を大切にして、状況に柔軟な対応をすれば、適切な方向転換ができる。農協が対象とするべき組合員を明確にできれば、培った信用と組織力が活きる。
使命を変えるか、組織を変えるか、その選択を迫られている。
座っている椅子から立ち上がってこそ、新しい椅子に座ることができる。
※道県の模範定款例に拠れば「農業経営基盤強化促進法第19条の規程によって利用権を設定したことにより、組合員資格の面積要件と従事要件に該当しなくなった者であっても、一定の要件に該当する者は引き続き正組合員とする」と、なっている。
※安高さんの「高」の字は正式には旧字体です。