「荷物を運んでくれ」と頼んだら「車がないから運べません」と言う。「車は用意する」と言えば「道がわからない」と言う。しまいには「私の仕事じゃない」と言うかもしれない。
ようするに、やる気がない。「運べない」のではなく「運びたくない」のだ。
やる気があるなら、最初から「車があれば運びます」「道を教えてください」と言うだろう。やる気がないから、できない理由をならべ、考えようとしない。
農家も同じだ。なぜ儲からなかったかと尋ねると、天候が悪かったからと言う。天候がよかったらどうなるのか。野菜がよくでき、価格が下がって豊作貧乏になる。台風、長雨、干ばつ、低温…などのせいにして、しまいには豊作を言い訳にする。
自分が努力しなかった、見通しが甘かった、よく考えなかった。これが原因なのに、天候などのせいにして考えようとしない。
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農協の独禁法適用除外や事業分割が検討されている。農協側の論調はこれに否定的だ。
専業農家の私には、独禁法や事業分割の問題が農業生産に悪影響を及ぼすとは思えない。
組合員が農協の使える機能だけを活用するのは当然のことだ。事業分割したって農協金融がなくなるわけではない。細部の問題は工夫すればよい。大きな方針を時代に合わせなければ生き残れない。
農協の環境は大きく変わった。管理経済から市場経済になった。農協の構成員も変化した。400万を超える正組合員の組織として機能するのか、その1割にも満たない農業生産を担う農家のために機能するのか、その葛藤は単位農協の現場に放置されたままだ。
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この問題に果敢に取り組んでいる農協職員がいる。JAふくおか八女の総合販売部部長である甲斐田慎二氏だ。「独占禁止法からみたJAと生産部会」という論稿を『JA経営実務』(全国共同出版)6月号に書いている。
「農家が自立して使う必要のない機能は使わなくてよい。農協の事業利用は組合員の自由意思に委ねられるべきだ」という考えに正面から向き合っている。生産者にとって組織が必要であっても、「組織を守ることが生産者を守ることだろうか」と疑問を抱いている。
彼は言いきっている。「公正取引委員会の指針や政府の事業分割論などが現実のものとなっても、組合員に奉仕できる体制と農協が生き残る事業展開はしっかりと構築できる」と。営農指導員からスタートして、JAの直販拠点である東京事務所を立ち上げた甲斐田氏は言い訳をしない。農協界にとって、彼の意識の高さは心強い。