今年の「梅雨明け十日」は暑かった。梅雨が明け、太平洋高気圧が張り出して晴天が続く。今年は典型的な梅雨明けだった。
野菜農家の私は、夏には冬の寒さが気にかかる。もうすぐ秋冬野菜の作付けがはじまるからだ。わが家の冬の主な出荷野菜は露地栽培のホウレンソウ。今年の冬はどんな気象になるのだろうか。暖冬なのか、寒い冬か。気にかけているが、作付け方針は決まっている。
「今年の冬は寒い」と決め打ちしている。さらに加えて「雨が多い」と決めてかかる。寒くて雨が多い冬を前提に栽培管理をする。
ホウレンソウは寒いと生育が悪い。そして雨に弱い。寒いならば、早めに種を播く。寒くても比較的生育のよい低温伸張性のある品種を播く。雨が多ければ、排水がよくなるように畝立てをする。湿害に強い品種を選ぶ。
もしも暖冬だったらハズレだ。大きくなり過ぎてほとんど出荷できない状態になる。豊作だと価格が暴落する。出荷したって、どうせ儲けはない。出荷経費も稼げないだろうから、圃場廃棄になる。豊作貧乏だ。
寒くて雨が多かったら、ほうれん草は不作になる。価格は高騰する。ここで出荷して大儲けを目論むのである。
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競馬のたとえで恐縮だが、10レースすべて本命を買ったとしよう。10レース中9レースが当たり、100円で110円の配当を得ても、1000円買って990円の配当、10円の損だ。10レースすべて穴馬を買って、10レース中9レースハズレでも、1レースが当たって1100円の配当を得れば100円の儲けになる。
1位を当てることが目的ならば、前者が勝率9割で圧倒的勝利だ。しかし、当てることと儲けることは違う。
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いい野菜をつくれば儲かるってもんじゃない。いい野菜をつくろうとすればいい野菜はできるが、いい野菜をつくることと儲けることは違う。
いい野菜をつくるためには畑を見ておけばよい。儲けるためにはマーケットを意識する。儲けようとしなければ儲からない。
野菜農家には栽培管理よりリスク管理が必要だ。いちいちハズレを嘆いてたんじゃ仕事にならない。ハズレは織り込み済みにして、当たりを逃さない努力をする。所得補償をしたらリスク管理能力が磨かれない。リスク管理こそが経営者の仕事だ。
経営は孤独で非情な世界。いい野菜をつくる方法は万人に通用するだろうが、儲ける方法は万人に共通しない。協同組合が支えられる範囲も限られている。