日本の農畜産物は高品質であるので、企業的な経営により国際競争力のある儲かる産業にすることができる。このところこの種の本がたくさん出ている。経済の専門誌である「週刊東洋経済」も8月20日号で「農業は儲かる」の特集を組んでいる。
農業をこのような視点から取り上げるのは結構なことであり、書かれていることも皆尤もなことである。新規参入組、ベンチャー企業が新しいことにチャレンジをすることは、農業という幅の広い産業では比較的容易である。これまでのやり方にとらわれないチャレンジは農家への刺戟にもなり結構なことである。
輸出を例にみると、外国のエンドユーザーまで届けるルートを作ることが前提である。個々の農家ではとても難しく、単位農協でも限界がある。そこで連合会が輸出の実務を担当している。
すでに昭和30年代から、全農の前身である「全販連」には農林部に輸出食品課があり鶏卵、ミカン、ミカン缶詰、乾椎茸などを輸出していた。カナダでは温州ミカンが好評で、クリスマス・オレンジとしてクリスマスには欠かせない果物の評価を得ていた。
全農になってからも乾椎茸は続いておりミカン、エノキ茸、20世紀梨、牛肉、コメなどを宣伝ではなく事業として商業ベースの輸出をしている。
また「直売所」についても、農協の共同販売では高品質のものを作った農家も平均化されてしまい、努力が評価をされない仕組みなのでこれに代わるものとして直売をもてはやしているのがいる。スーパーの生産者直売コーナーも同様に革新的な流通というような評論がある。これらは見当違いである。農家の生産したものをダイレクトに消費者に販売する場所ができたことは作る側にも買う側にも大変結構なことである。新鮮なものが収穫をしたそのままの姿で商品になることが実証される効果は大きい。
但し、このような販売の方法が成り立っているのは、卸売市場、農協組織などが農産物の流通の主流をきちんとコントロールできているからいろいろな売り方ができるのである。農家は、小遣い程度ならばともかく、生産物の売り場所が直売所程度しかなかったら経営が成り立たない。主力を安心して出荷できるところ、メインとなる流通があるからいろいろチャレンジができる。評論家、学者先生はこのような実態をよく見て間違いのない評価をしていただきたい。