コラム

「林佳恵のぎっしり、にっこり!村の知恵袋」

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【林佳恵】
ネーミングの妙 滋味vs素頓狂

ネーミング方法(1) プラス思考で 「柿美甘(かきみかん)」と「まかポン」

 「吾輩は猫である。名前はまだ無い」。かの漱石先生の猫は、とうとう最後まで名付...

干し芋焼酎「へのかっぱ」

 「吾輩は猫である。名前はまだ無い」。かの漱石先生の猫は、とうとう最後まで名付けられることなく、終わってしまいます。
 わたしの仕事の柱は、本のカバー等をデザインする装幀(そうてい)です。デザインをする前に必要なのは、内容をつかむこと。そのためには著者の原稿を印刷したゲラ刷りを読みます。著者が読者へ、社会へ訴えたいものは何か。わたしの方法は一人の読者として、なるほどと思う箇所には色鉛筆で線をひき、これはと感じたことばを抜き書きしておきます。その作業中に思いもよらなかったタイトルが浮かんで来ることがあります。著者、編集の方々へ、その題名を参考までにとお話しして、採用していただく時もあります。
 ラベルのデザインとともに、商品名もわたしが命名し、ヒットしたものがあります。山形県庄内町、鯉川酒造のお酒「亀治好日」と、茨城県のJAひたちなか、干し芋焼酎「へのかっぱ」です。

ネーミング方法(1) プラス思考で

「亀治好日」

 「亀治好日」はササニシキ、コシヒカリの親、「亀ノ尾」を原材料にした純米吟醸酒。好(よ)き日は勿論、そうでない日も、この「好日」で前向きに乗り切ってほしい…との祈りを込めた命名です。大変な苦労をして、「亀ノ尾」を育種した阿部亀治翁の労をねぎらい、その姿勢を称え、受け継ぎたいと、「好日」の前に名を冠しました。
 この酒は、雑誌『ダンチュウ』04年3月号で、「今年の本命、“純米酒20選”」のひとつに選ばれました。
 JAひたちなか、干し芋焼酎「へのかっぱ」はどんな時でも、へっちゃら、大丈夫、大丈夫と乗り切って行きましょうとの想いを込めています。「へのかっぱ」については後日、茨城県の直売所を紹介する時に、詳しく書くことにいたします。
 この2件は、社会の閉塞的な空気を吹き飛ばしたいともくろんでの命名。ラベルの名を見ているだけで、元気がわいてくる、気分が前向きになる、プラス思考、の命名例です。「亀治好日」には、祈りと安らぎの滋味もあります。

「柿美甘(かきみかん)」と「まかポン」

「柿美甘(かきみかん)」と「まかポン」

 山形県鶴岡市羽黒町松ヶ岡の国指定史跡「松ヶ岡開墾場」内の直売所はわたしの知る限り、日本で最も小さな直売所ではないかと思います。ところが、目を見張る品々が揃っています。
 シールのデザインもすっきりと洒落ている「柿美甘」には手がすっと伸びました。1センチ程に切られた赤い乾燥柿。羽黒干し柿研究会と松ヶ岡ひょうたんの会の作。名産庄内柿の加工品です。干し柿よりもっとしっかりと乾かされているドライフルーツ。わたしは秘かに「後引(あとひ)き柿美甘」と呼んでいます。「柿美甘」とはなんと滋味あふれ、歯切れのよいネーミングでしょう。
 一方、思わずクスリと笑みがこぼれたのは「まかポン」。購入してすぐ袋の口を開けてしまい、2つ3つつまんで、わが口にポイ。すばやく反応したのは親指と人差し指。袋からつまんでポイ。ポイ。塩味としょうが味、両方の袋をいったり来たり、まいりました。ふるの工房、古野和子さんの作。楽しいネーミングは気持ちを明るくしてくれます。子供を叱ったあとに、「はい、まかポン」なんて一緒につまめば、親子の絆はますます、しっかり結ばれるのではないでしょうか。古野さんのポン菓子シリーズにもうひとつ「まめポン」があります。
 先日、山形県庄内町の会合に出席した折、鶴岡市藤島の直売所「四季の里楽々(らら)」を訪ねましたら偶然、古野さんに…。工夫するのが楽しくて仕方がないようで元気一杯。そういえばわたしもゲラ刷りを読んでいる時、知らなかった世界に、目をひらかれるのが嬉しくて、ワクワク。すると自然にタイトルが…。古野さんの好奇心と創意工夫の過程の中で命名はポンと生み出されたに違いない。「四季の里楽々(らら)」の楽しさは次回。

(2007.08.22)