コラム

「林佳恵のぎっしり、にっこり!村の知恵袋」

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【林佳恵】
地域へ飛び出せ「どろんこのうた」

掘り出し物が「あるね屋」
「どろんこのうた」とコラボレーション
ことばの力

 愛媛県に同好の人ありとは……。西予市商工会女性部の...

 愛媛県に同好の人ありとは……。西予市商工会女性部の招きで「ごみ減量化からはじめる経営改善―風呂敷一枚で暮らしが変わる」と題して講演をしてまいりました。JR卯之町駅から3分ほどの商工会館に案内され、物産品コーナー「れんげの里」で、目が釘付けになったのは「お稲クラフトコーナー」(写真1、2)。古代米リースやかかし人形、見上げればシャンデリアのような作品が展示されていました。それらの作者は、商工会女性部部長、二宮貞子さん。家業はタクシー会社。「稲作にまつわる風景が大好き」と。稲穂やお米をインテリアに、と提唱してきたわたしの御同輩。意気投合です。

 わたしが’79年8月に装幀した『農の美学―日本風景論序説』勝原文夫著(論創社)のカバーには、藁を積重ねた山形県庄内地方の「わらにお」の写真(土門拳撮影)を配していますが(写真3)、こちら西予市宇和町では「わらぐろ」と称されていました。昔はあちこちで見かけられたこの地域の風物詩も、今日ではめっきり減ってしまい、なんと保存会ができた由。二宮さんと商工会の宇都宮清子さんに町の直売所を案内していただきました。


掘り出し物が「あるね屋」

 スペースは広くありません。そんなマイナスをプラスにしてみせた売場です。手をかけて育て上げた自慢の品を、臆せずアピールする生産者のメッセージボードの数々。展示方法も立体的に、つるしたり、二段構えと、所狭し。ところがこれが店内を賑やかにして、宝の山へ分け入ったよう(写真4、5、6)

 これは大事な要素で、活気を演出する展示は、商品の鮮度まで高める効果があります。食材を陳列するには、あまりふさわしい色とは思えないブルーのプラスチックケースも、なぜかこの店ではそれほど気になりません。しかしパーフェクトを目指すのなら、木の箱か黒か茶、深緑のケースにしたいものですね。主役の野菜、加工品の色を際立たせる色や素材を選びたいものです。丹精された農作物の見映えを工夫するのは、販売者の勤めだとわたしは考えますがいかがでしょうか。

「どろんこのうた」とコラボレーション

 知的障害児(者)施設、野村学園のカレンダー「どろんこのうた」には目を引かれました。詩の創作や版画詩彫りに打算なく一所懸命打ち込む方々の作品には、大向こうをねらったあざとさが皆無です。作品を見た瞬間に、心持ちがゆったりと落ち着き、自然に頬がゆるみます(写真7)。わたしが案内された「あるね屋」は株式会社田村商事のあるね屋事業部の宇和店です。JA直営の店舗に比べれば、小さなスペースですが、ここにはアイディアがあります。そこで、わたしからも提案をひとつ。野村学園とのコラボレーションで、布の買い物袋や風呂敷を商品化されてはいかがでしょう。レジ袋の使用を減らすこともできます。なにより彼らの詩や版画が地域へ飛び出せば、多くの方の目をゆるめ、わたし同様に心なぐさめられるのではないでしょうか。

ことばの力

わたしの仕事のひとつに日本テレビ「笑点」の「笑点暦」のデザインがあります。’06年、番組40周年記念品に風呂敷を提案。デザインは落語の演目「寿限無(じゅげむ)」を寄席文字で染め抜いたもの。寿、限り無しという目出たいことばが多くの方々の目にふれることで、閉塞感の漂うこの時代の希望と元気の芽となればの想いからでした(写真8)
  ことばには力があります。買い物袋にプリントされていれば、声に出さずとも想いが伝えられます。見知らぬ方と目と目で以心伝心。地域がやわらかく変わりますよ。

(2008.03.06)